[出典] "Engineering of the endogenous HBD promoter increases HbA2" Boontanrart MY [..] Corn JE. eLife 2023-06-02. https://doi.org/10.7554/eLife.85258 [著者所属] ETH Zurich.
成人におけるβ-グロビン遺伝子の変異によって生じる血液疾患に対して遺伝子治療法としてこれまで主として、β-グロビン変異の修復またはγ-グロビン (胎児型ヘモグロビン) の発現亢進が試みられて来たが、ETH Zurichの研究チームは今回、δ-グロビンの発現亢進による治療法の可能性を示した。
- δ-グロビンは、β-グロビンと相同性が高い成人のへモグロビンA2のサブユニットであり、低レベルではあるが成人の赤血球細胞全般で発現している。
- 研究チームは、CRISPR-Cas9を介した相同組み換え修復 (HDR)を利用して、δ-グロビンの内在性プロモーター領域において機能していない転写因子を修復することで、δ-グロビンの発現亢進を試みた。
- 患者のHBD プロモーターでは、複数の転写因子 (KLF1, NF-Y, β-DRF およびTFIIB) の結合部位に変異が生じていることが知られていた。KLF1結合部位単独の修復では不十分であったが、KLF1, β-DRF, およびTFIIBが結合するモチーフを挿入することで、十分なヘモグロビンD (HDB) の発現に成功した。
- ヒト赤血球前駆細胞株HUDEP-2のプロモーターにおいて多重な転写因子を編集することで、クローン集団の全β様グロビンに占めるHBD 転写物の比率を5%以下から20%を超えるまで上げることに成功した。
- CRISPR-Cas9編集を施したCD34陽性造血幹・前駆細胞 (HSPCs) は初代ヒト赤芽球へと分化し、クローン集団のHBD の46%までを発現した。
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