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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

- ゲノムワイドCRISPRi 実験などから
[出典] "Comparative landscape of genetic dependencies in human and chimpanzee stem cells" She R, Fair T [..] Weissman JS, Pollen AA. Cell 2023-06-20. https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.05.043 [著者所属] Whitehead Institute for Biomedical Research, UCSF, MIT, HHMI;グラフィカルアブストラクト
 類人猿の比較研究は、ヒトの進化の過程を理解する手法として有用であるが、ヒトの進化の過程で生じてきた種間の細胞の違いの広がりと実体の理解はほとんど進んでいない。UCSFを主とする研究チームは今回、ヒトの細胞が他の霊長類の細胞と異なる遺伝子依存性を示すかどうかを評価するために、機能喪失を比較するアプローチを確立した。
  • ヒトとチンパンジーの多能性幹細胞 (PSCs) を対象に[*]、細胞増殖とシーケンシングを見るゲノムワイドなCRISPRi (dCas9-KRAB; 104,535 sgRNAs) スクリーニングを行い、細胞増殖に種特異的な影響を与える遺伝子を特定した [Figure 1参照]。[*] ヒト細胞 (WTC11とH1);チンパンジー (C3649とPt5-C)
  • 16種類のCRISPRiスクリーンと、必須遺伝子と非必須遺伝子の依存性マップ (Dependency Map) の解析から、PSCsの増殖に種特異的な影響を与える遺伝子75種類を同定した。CRISPRiスクリーンに続いて、オランウータンおよびヒトとチンパンンジーの細胞の数例について、個別の遺伝子ノックダウン実験、コピー数多型の解析、およびRNA-seqを行い、種による遺伝子依存性の違いが、リソソーム関連シグナル伝達と細胞周期の進行を含む一定のパスウエイに集中していることを発見した [Fig. 3参照]。
  • 研究チームはまた、ヒト、チンパンジーおよびオランウータンの比較から、ヒトPSCsに特有な遺伝子依存性は、ヒトにおいて顕れたと結論付けた [Figure 7参照]。
  • 神経前駆細胞や大脳オルガノイドにおいて、チンパンジーでは必須であったCDK2 やCCNE1の欠損に対して、ヒトには特有の頑健性が維持されていた。これは、ヒトの脳拡大における進化的メカニズムとして、細胞周期のG1期の長さ仮説 (G1-phase length hypothesis) を支持する知見である。
 本研究は、ヒトの細胞は進化の過程で、必須遺伝子のランドスケープが変化したことを示すものであり、また、種間の潜在的な細胞や分子の違いを進化系統的に明らかにするためのプラットフォームを確立するものである。
 
 [補足] 本研究のアプローチが分子/細胞レベルの種差の同定に有利な点
  • PSCsは大量増殖が可能であり、各遺伝子を標的とする複数の冗長なライブラリー・エレメントを用いたプール型ライブラリーを利用できる。
  • 実験室での細胞培養は、明確に定義され、高度に制御された環境を提供するため、外因的な変動要因を最小限に抑えることがができる。
  • プール型スクリーニングのスケーラビリティによって、それぞれの種の複数の個体から得たPSCsで各細胞の表現型の再テストが可能になり、同一種内の個体差を評価することが可能になる。
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