- 鎌状赤血球症 (sickle cell disease: SCD)とβサラセミアの治療法
[注] ABE (adenosine based editing)
[出典] "Potent and uniform fetal hemoglobin induction via base editing" Mayuranathan T, Newby GA [..] Liu DR, Weiss MJ, Yen JS. Nature Genetics. 2023-07-03. https://doi.org/10.1038/s41588-023-01434-7 [著者所属] St. Jude Children’s Research Hospital, Broad Institute of Harvard and MIT, Harvard U, U New South Wales, NHLBI & NIDDK/NIH.
SCDとβサラセミアは、成人ヘモグロビン (Adult Hemoglobin (HbA); α2β2) のβ-グロビンをコードするHBB 遺伝子の変異が原因である。その治療戦略の一つが、成人では発現が抑止されている胎児ヘモグロビン (Fetal Hemoglobin (HbF); α2γ2) を発現させることで、生活するに十分なヘモグロビンを確保するアプローチである。
これまでに、CRISPR-Cas9を利用してHbFの発現を抑制するBCL11Aを破壊または阻害するアプローチが考案され、臨床試験も進行中であるが、今回、St. Jude Children’s Research Hospitalと塩基エディターを開発したDavid R LiuのBroad Insituteを主とする研究チームが、Cas9と異なりDNA二重鎖切断 (DSB) を必要としない塩基変換ツールであるABEを利用して、HbFの発現を亢進するアプローチを試みた。
CD34陽性造血幹・前駆細胞 (hematopoietic stem and progenitor cells: HSPC) を対象に、Cas9ヌクレアーゼまたはABEによるアプローチ5種類を試みた。
- ABEをベースとするアプローチでは、KLF1, TAL1, またはGATA1転写因子の結合モチーフの生成を介してHbFの発現亢進を試みた。
- ABEによるアプローチを比較評価した結果、ABEを介したHBG-175A>GによるTAL1-GATA1のハイブリッド結合モチーフの生成が最も強力であった。ABEによる塩基変換を加えなかったコントロールの赤血球コロニーでのHbF発現が17±11%であったのに対して、 ホモ型-175A>G塩基変換が進行した赤血球コロニーでは81 ± 7% がHbFを発現した。
- 一方で、Cas9を利用してγ-グロビンのプロモーター内のBCL11A結合モチーフまたはBCL11A 赤血球エンハンサーを破壊するアプローチの場合はいずれも、ABEによるアプローチに比べてHbFレベルがおしなべて低く (2分の1から4分の1) 、加えて、細胞間で発現レベルが大きく変動しHbFの発現がコントロールよりも減少する例もあった。
- HSPCを移植した免疫不全モデルマウス体内の赤血球の場合も、塩基変換 –175A>Gを加えた HSPC由来がCas9編集HSPC由来よりも、強力にHbFを発現した。
- HbF発現誘導性の違いに加えて、Cas9編集は、標的部位に多様なindelsが誘導され予期しない表現型の変化がもたらされるが、ABE編集ではそうした問題を回避可能であった。
- また、ABEはp53の活性化や大規模な欠失といった遺伝毒性をもたらさず、ゲノムDNAまたはRNAのオフターゲット編集が抑制されているが、臨床応用にあたっては、ABEについても安全性のさらなる検証が必要である。
[注] Akshay SharmaはSt. Jude Children’s Research Hospital におけるVertex Pharmaceuticals/ CRISPR Therapeutics (CTX001: NCT03745287), Novartis Pharmaceuticals (OTQ923: NCT04443907 ) および Beam Therapeutics (BEAM-101 : NCT05456880)がスポンサーとなっている臨床試験のPIである。
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