(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/02/08

  1. [論文] 蝶の生物時計遺伝子を同定:Christine Merlin (Texas A&M U.)
    • Merlin研究室では、オオカバマダラ(挿入図)をモデル生物として、生物の渡り(長距離移動)と体内時計の研究を進めている.今回、2種類の時計遺伝子候補cryptochrome 2clock (clk) をTALENとCRISPR/Cas9で編集.いずれの手法によっても標的サイトにおいてNHEJ修復パスウエイを介した変異が高い効率で発生.オオカバマダラ
    • 卵子100個への注入によってノックアウト系統を3ヶ月で確立することができ、CLKが、生物時計の転写活性化複合体の必須因子であることを同定.
    • プログラム可能なエンドヌクレアーゼを利用したゲノム編集は、伝統的モデル以外の昆虫の研究に有効であり、また、HDRによるノックインの展開が可能である.
  2. [論文] SapTrap:線虫ゲノム編集の高速化ツールキット:Erik M. Jorgensen (U. Utah)
    • SapTrapによって、6種類の異なる遺伝子座への3〜4 kbのタグ挿入を、10〜37 %の効率で実現.
    • CRIPR/Cas9による外来配列挿入を実用に供するには、挿入標的サイトごとに必要なHDR用の修復テンプレートとgRNAの構築に時間と経費を要することと、頻度が低い遺伝性改変個体のスクリーニングに時間を要することが障害になっていた.
    • タグと共に除去可能なスクリーニング用マーカを含むHDR用修復テンプレートを設計:5末端相同アーム|タグ(例 GFP)|LoxP|Cbr-unc-119 |LoxP|3末端相同アーム;スクリーニング終了後Creリコンビナーゼによって、1個のLoxPだけ残して、マーカーCbr-unc-119 を除去;gRNAと相同プラスミドは調整済み合成オリゴヌクレオチドを使用しPCRあるいはクローニングを回避.
    • Golden Gateアッセンブリー法に準拠し制限酵素Sap1を利用して、順序良く部品をtrapし、一本のプラスミドターゲッティングベクターへとアッセンブル.
  3. [論文] CRISPRとアンチセンスRNAの複合システム:Tae Seok Moon (Washington U., St. Louis)
    • 遺伝子回路合成にあたりこれまで制御因子として主としてタンパク質が利用されてきたが、タンパク質に比べてRNAには、設計が容易であり、細胞にかける負荷が小さく、また、直交性が高いという利点がある.今回、複数種類のRNAを組み合わせを試行した.
    • 具体的には、Escherichia coli において、sgRNAとdCas9のCRISPRシステムによって遺伝子発現の抑制を、sgRNAを標的とするアンチセンスRNA(asRNA)によって解除可能なことを示した.
    • また、sgRNAの異なる領域を標的とするasRNAを設計し、sgRNA-asRNA複合体のハイブリダイゼーション自由エネルギーを調節することで、抑制解除の程度を95%までの範囲で制御可能なことを示した.
    • CRISPRとアンチセンスRNAの複合システムによって、複数の遺伝子を同時に可逆的に抑制/解除することができる.
  4. [論文] CRISPRiによるアミノ酸産生菌の代謝工学:Timothy K. Lu (MIT)
    • 不活性化したCas9 (dCas9)を利用した遺伝子発現抑制法CRISPRiを利用して、アミノ酸産生菌Corynebacterium glutamicumの遺伝子発現レベルとアミノ酸産生量の相関を解析.
    • CRISPRiによってpgipckの発現を98%まで、pykの発現を97%まで、低減させ、遺伝子欠損させた場合と同等のL-lysineとL-glutamateの産生量を実現.
    • CRISPRiを利用することで、遺伝子の削除や変異とそれに続く選別することなく、3日間でC. glutamicum の代謝パスウエイの再構成が可能.