[出典] "Ablation of OCT4 function in cattle embryos by double electroporation of CRISPR-Cas for DNA and RNA targeting (CRISPR-DART)" Nix JL [..] Biase FH. bioRxiv 2023-07-07 (preprint). https://doi.org/10.1101/2023.07.07.548144. [著者所属] Virginia Polytechnic Institute and State U.
 
 一連のCRISPR-Cas RNPsは着床前胚の遺伝子編集に重要なツール群である。しかし、両アレル・ノックアウト効率が低くウシ胚における機能ゲノミックスには不十分である。また、標的遺伝子のノックアウト実験においては、胚性遺伝子の活性化が始まるまで胚の発生を担う母性RNAsが及ぼす影響を勘案する必要のある。著者らは今回、両アレル・ノックアウトの効率を向上させ、かつ、特定の母性RNAの欠損させる手法を開発しCRISPR-DART [*] として発表した。
[*] DART : DNA and RNA targetingに由来すると命名と思われる。 
  • OCT4 の第1エクソンとプロモーターを標的とするCas9D10A RNPのエレクトロポレーションを介して、両アレル欠失を91%の効率で実現した。欠失の長さはほとんどの場合、1,000 ntを超えた。
  • 続く、Oct4 mRNAを標的とするCas13a RNPのエレクトロポレーションを介して、OCT4タンパク質の発現を阻止した。
  • 本実験でのOCT4 欠損によって、 胚盤胞形成前の胚発生停止がコントロールの31.6%から44.6%へと上昇した。
  • 単一の胚盤胞のトランスクリプトミクスから、OCT4 のエクソン1とプロモーター領域が欠失し、幹細胞性に機能的に関連している多能性マーカー (CADHD1, DPPA4, GNL3, および RRM2) を含む一連の遺伝子の転写物が減少していることが示された。
 CRISPR-DARTを利用した実験から、ウシ胚において、OCT4 [*] が多能性を制御する主因子であり、機能性胚盤胞の形成に必須であることが示された。
 
[*] Oct4とその補因子(cofactor)のSox2は、胎児の発生において最初の決定を制御する転写因子群の中心となる存在である。Oct4は胎児の幹細胞に存在する転写因子で、細胞が分裂し分化し始めると発現量は低下する。Oxt4は幹細胞状態の維持に必要であることから、発生の「門番」(gatekeeper)と呼ばれている [PDBj入門>今月の分子 112 Oct・Sox転写因子]