[出典] Batra R, Nelles DA ~ Yeo GW. “Elimination of Toxic
Microsatellite Repeat Expansion RNA by RNA-Targeting Cas9.” Cell. Available online 10 August 2017
RCas9
- Jennifer A. DoudnaらUC Berkeleyチームは2014年に(O’Connell et al. Nature 2014)、PAMをssRNAにトランスに供することで、dsDNAを標的とするCas9を、ssRNAの認識・切断に展開可能なことを示しこのシステムをRCas9(RNA-targeting Cas9)と命名した。
- 続いて、Gene W. YeoらのUCSDとUC Berkeleyの共同研究チームが2016年に、dCas9を組込んだRCas9により、ストレス顆粒への移行などmRNAの細胞内動態の可視化を実現した(CRISPR関連文献メモ_2016/03/19(RCas9によるRNA追跡))。
- 今回、Gene W. YeoらUCSDとフロリダ大学の研究チームは、SMG6に由来するPIN RNAエンドヌクレアーゼドメインをRCas9に融合したPIN-dCas9 (a nuclease-dead Cas9 fused to the PIN RNA endonuclease domain)より、マクロサテライト反復伸長(Microsatellite repeat expansions, MREs)由来RNAsを標的・編集し、MREs由来の反復RNAやタンパク質に由来する疾患の診断と治療へとRCas9を展開可能なことを示した。
[注] MREs疾患と対応する反復配列の例
- 筋強直性ジストロフィー1型(DM1) DMPK遺伝子 CTG
- 筋強直性ジストロフィー2型(DM2) CNBP遺伝子CCTG
- ハンチントン病(HD)CAG
- 遺伝性筋萎縮性側索硬化症C9-ALS C9orf72非翻訳領域におけるGGGGCC
MREsの可視化
- RCas9(dCas9:sgRNA-GFP)によりCTG 105コピー、CCTG 300コピーまたはCAG 80コピーをコードしたプラスミドを導入したCOS-M6細胞に形成されるRNA fociの蛍光像が、RNA FISHによるRNA fociの蛍光像と一致することを確認(ただし、適切なsgRNAの選択が必要)。この際、PAMmerの存在の如何によらずRNA FISHとRCas9からのシグナルが十分一致することを見出した。すなわち、PAMmerは反復配列RNAの認識には必須ではないことが明らかになった。
RCas9によるRNA fociの除去
- COS-M6細胞において、dCas9-GFPとテロメラーゼ結合タンパク質EST1A遺伝子SMG6由来のPIN RNAエンドヌクレアーゼ・ドメインを融合しHAで標識したPIN-dCas9のいずれもが、CUGexp, CCUGexp, GGGGCCexpおよびCAGexp由来のRNA fociを除去することを確認。
- このRCas9活性にはPAMmer依存性が見られず、また、CUGリピートを対象とする詳細実験からPIN-dCas9がdCas9-GFPよりも低濃度でMREsを除去可能なことから、以後の実験はPIN-dCas9にてPAMmer無しで行った。
- また、RCas9がCUG反復配列に直接結合することを同定し、RNA結合タンパク質のCUG反復配列への結合不安定化の機構の存在が示唆された。
- RNAを標的とする療法では、転写される病原RNAを継続的に対処する必要があることから、比較的長期間外来遺伝子を生成可能なAAVによるRCas9システム送達が望ましい。そこで、 それぞれ長さが∼4.3と3.9 kbのPIN-dCas9(ΔHNH) and PIN-dCas9(ΔHNH,ΔREC2) も作出した。
患者由来細胞におけるRNA foci除去
- DM1とDM2の患者由来の細胞において、PIN-dCas9とCUGexpまたはCCUGexpを標的とするsgRNAによって、ほとんど完全にRNA fociを除去可能なことを確認した。
RCas9でDM1に見られるスプライシング異常を修復
- CUGexpが存在するDM1では、スプライシング因子MBNL1のRNA fociへの凝集を介して、筋において選択的スプラシング異常が起こっている。
- COS-M6細胞に、GPFで標識したMBNL1、PIN-dCas9およびCUGexpを標的とするsgRNAまたは標的としないsgRNAをコードするプラスミドを送達し、RNA FISHでCUGexpを可視化し、RCas9システムによってMBNL1がRNA fociから遊離することを見出した。また、DM1患者由来筋芽細胞でも、抗-MBNL1抗体を利用した免疫蛍光法でCOS-M6細胞で見られたと同様のMBNL1の再配置を観察した。
- RNA-seqによるゲノムワイドでの解析から、RCas9がスプライシング異常をゲノムワイドで修復することも確認
RCas9は、ポリグルタミンタンパク質レベルを低減する
- CAGexpRNAsを標的とするRCas9によって、ハンチントン病などの原因タンパク質であるpolyQを低減
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