[出典]
論文 "Comprehensive spatiotemporal mapping of single-cell lineages in developing mouse brain by CRISPR-based barcoding" Xie L, Liu H [..] Wei W, Chen Y. Nat Methods 2023-07-17.
https://doi.org/10.1038/s41592-023-01947-3 [著者所属] CAS Center for Excellence in Brain Science and Intelligence Technology, CAS Key Laboratory of Computational Biology, Children's Hospital of Fudan U, Institute of Brain Science (Fudan U), UniXell Biotechnology, CAS Key Laboratory of Computational Biology, Center for Biomedical Informatics (Shanghai Jiao Tong U), Lingang Laboratory, Shanghai Center for Brain Science and Brain-Inspired Intelligence Technology;
解説 "Research Briefing: A method to map single-cell lineages in the mouse brain by CRISPR-based barcoding" Xie L, Chen Y. Nat Methods 2023-07-13.
https://doi.org/10.1038/s41592-023-01948-2

[背景]
 
 発生神経科学の関心事は、脳における単一細胞系譜の完全なマッピングである。現在、前脳におけるハイスループットの細胞系譜追跡のために、ウイルスの脳室内注射を介して、細胞を一意に標識するために多様なDNA配列をバーコードとして挿入するアプローチが取られている [*1]。しかし、ウイルス注入はアクセサビリティーの限界、潜在的な毒性、および技術的な困難さを伴い、異なる脳領域における完全な細胞系譜追跡への応用が広がっていない。
 
 これまでに、CRISPR-Casシステムによる遺伝子編集を介したバーコーディングをベースにした細胞系譜再構築法が開発されてきたが [*2]、哺乳類の脳における細胞系譜再構築への応用は実現していない[*3]。また、個々の前駆細胞の運命ポテンシャルを生体内で把握することが望まれるが、これは、scRNA-seqによるトランスクリプトーム・プロファイリングの際に、前駆細胞が破壊されてしまうことから、不可能であった。
 
 [*] 引用論文またはcrisp-bio記事 
  1. STICR (scRNA-seq-compatible tracer for identifying clonal relationships: "Single-cell delineation of lineage and genetic identity in the mouse brain" Bandler RC, Vitali I, Delegate RN [..] Mayer C. Nature 2021-12-15. https://doi.org/10.1038/s41586-021-04237-0; "Individual human cortical progenitors can produce excitatory and inhibitory neurons" Delgado RN [..] Nowakowski TJ. Nature 2021-12-15.https://doi.org/10.1038/s41586-021-04230-7
  2. CRISPR関連文献メモ_2016/06/10
  3. CRISPR関連文献メモ_2016/05/31 "GESTALT法:合成DNAのゲノム編集パターンをバーコードとして、細胞系譜を追跡する" (マウス体内での細胞系譜追跡を実現したが、脳は対象外であった)l; "An engineered CRISPR-Cas9 mouse line for simultaneous readout of lineage histories and gene expression profiles in single cells" McKenna A [..] Shendure J. Science 2016-07-29
[成果]
 CAS Center for Excellence in Brain Science and Intelligence Technologyを主とする上海の脳神経やバイオインフォマティクス分野の研究機関のチームが今回、CRISPR遺伝子編集をベースとする細胞系譜に特異的な追跡を可能にする手法CREST (CRISPR editing-based lineage-specific tracing) を開発し、マウスの腹側中脳の発生時の完全な細胞系譜追跡を実現した。
  • 安定的に継代されるCas9-sgRNA発現カセットとデュアルレコーダーカセットを、TIGRE 遺伝子座とRosa26 遺伝子座に導入した2種類のCRESTマウス系統を作製した [論文 Extended Data Fig. 1参照]。CRESTマウス系統を目的のマウスCre系統と交配すると、Creリコンビナーゼが関心のある特定の細胞集団特異的にCRISPRバーコーディングを活性化し、これらの細胞集団の系譜は分化の過程を通じてEGFPで標識され続ける。このステップに続くFACS、シングルセルシーケンシング、バーコードの回収を経て細胞系譜が再構築される [解説 Fig. 1 a参照]。
  • En1 -Cre-CRESTマウス胚を対象として、時系列で分化のスナップショットを捉えていくsnapCRESTにより、発生中のマウス腹側中脳 (ventral midbrain: vMB) の完全な細胞系譜を再構築し、発生時のvMBの時空間的な細胞系譜を再構築し、vMBの個々の前駆細胞の主要なクローン運命をもたらす可能性のある6種類の前駆細胞の原型が存在することを明らかにした。また、床板の系譜において、グルタミン酸作動性、ドーパミン作動性、またはその両方の神経細胞を指定するの3つの異なる系譜が存在することを明らかにした。
  • さらに、前駆細胞のトランスクリプトームとその運命決定ポテンシャルを関連付けるために、pandaCREST (progenitor and derivative associating CREST) を開発した。pandaCRESTは、クローン集団を分割するアプローチ(Science, 2020) と腹側中脳オルガノイド (Development, 2022)をベースにしており、個々の前駆細胞のトランスクリプトームと細胞運命決定ポテンシャルの同時測定を実現する [解説のFig. 1参照]
  • pandaCRESTによって、ドーパミン作動性ニューロンには複数の起源が存在することを同定し、トランスクリプトームで定義された前駆細胞のタイプは、それぞれ異なるクローン運命と分子シグネチャーを持つ異種の前駆細胞から構成されることを明らかにした。
 CRESTマウス系統は、関心のあるCreまたはCreERマウス系統と交配することにより、vMB以外の組織や臓器の発生または再生時における単一細系譜を明らかにするために適用可能である。