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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "EU proposal on CRISPR-edited crops is welcome — but not enough" Mehta D. Nature 2023-07-18. https://doi.org/10.1038/d41586-023-02328-8 [著者所属] KU Leuven.
[注] 著者はインド出身、2018年にETH Zurichで植物バイオテクノロジーにてPhDを取得、現在、KU LubenのBiosystems部門の准教授 [The Mehta Lab]

 植物において異種の遺伝子を導入する手法の鍵となる技術のいくつかが欧州の大学で開発されたにも関わらず、2001年にEUは遺伝子組み換え (genetically modified: GM) 植物の野外栽培を禁止した。ことによって、欧州の農業における技術開発は遅れをとりはじめ、植物バイオテクノロジーの研究者が他の地域へと流出していった。したがって、EUの行政部門であるECがこの7月に、異種の遺伝子を加えることなく精密ばゲノム編集を可能にするCRIPSR-Cas9技術を含む新たなゲノム技術 (new genomic techniques: NGTs) の利用に関する新たな法律を、ようやく公式に提案したことは、歓迎すべきことであっった。EUの現行の規制では、NGTsで改変された植物にもGM穀物の規制が厳格に適用されている。

 EUの提案は、NGTsを利用した植物を2種類のカテゴリーに分類することになる。
  • カテゴリー1:従来から育成されてきた品種と酷似しているか、容易に見分けがつかないようなゲノム改変が施された植物であり、このカテゴリーは、ゲノム配列を決定しても、NGTsを使用して生産されたのか、従来の育種技術を使用して生産されたの特定できない可能性がる。例えば、植物病原菌に寄生される「感受性遺伝子」をオフにすることで植物に耐病性を持たせる場合、植物ゲノムの数百万のDNAのうち、わずか1~3塩基対を改変するだけであることが多い。このような植物は、旧来のGM植物の規制から解放され、EU以外では標準になってきている従来の品種改良された植物 (以下、従来型植物)と同様な規制を受けることになる。
  • カテゴリー2:NGTによって20塩基対以上の長い配列が改変された植物であり、GM植物と同じ規則が適用される。例えば、複数の病原菌に耐性を持つように操作された植物がこれに相当する。
 EC提案は、旧法からは確かに一歩前進したが、奇妙なことに、全てのNGTsを有機農業からは除外している。すなわち、カテゴリー1のNGT植物は、非有機農業では従来型植物として扱われるが、有機農業では、GM植物と定義される。この使い分けには科学的根拠が無い。また、EC自身が認めているように、カテゴリー1のNGT植物と従来型植物は判別不可能であるからには、NGTに由来する全ての種子や植物の生殖材料にNGTのラベルを付す方針は、実施不可能である。さらに、EUの2030年までに欧州の農地の4分の1を有機農業へと変えていく目標を達成するには、NGTsを利用した画期的な収量増加と病害中に対する耐性の付与が必須である。有機農業関係者と消費者は、CRISPR改変植物に反対とする意見もあるが、Insitute of Agroecology (スイス)のUrs Niggli所長は、NGTsの価値を認めており、欧州の農業が気候変動に対応していくには、NGTsが必須である。
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