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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[注] LNP (lipid nanoparticles / 脂質ナノ粒子: LNPs)
[出典] 
NEWS "Breaking Barriers in Drug Delivery with Better Lipid Nanoparticles" Kovner A. News from Berkeley Lab. 2023-07-17. https://newscenter.lbl.gov/2023/07/17/breaking-barriers-in-drug-delivery-with-better-lipid-nanoparticles/
論文 "Correlating the Structure and Gene Silencing Activity of Oligonucleotide-Loaded Lipid Nanoparticles Using Small-Angle X-ray Scattering" Hammel M [..] Yen CW, Hura GL. ACS Nano 2023-06-06. https://doi.org/10.1021/acsnano.3c01186 [著者所属] Lawrence Berkeley National Lab, Genentech Inc, UC Santa Cruz;グラフィカルアブストラクト 

[背景]

 COVID-19ワクチンで脚光を浴びたLNPの研究が、広範な核酸医薬の送達手段として、集中的行われている。LNP製剤には、効率的な標的細胞への融合と標的細胞内での薬剤放出、生体内での安定性、および長期保存性が求められるが、その性能は、成分の組成や製造過程のパラメーターに左右される構造に依存している。そこで、Genetechとローレンスバークレー国立研究所の研究チームは、LNPの構造活性相関 (SAR) をハイスループットで同定することを中核とする標題のバーチャルなハイスループットパイプラインを開発した。
 
 LNPは、生理的pHでは電荷的中性を示し酸性領域ではプロトン化するイオン化脂質 (Ionizable lipid)、
小胞形成を促すヘルパー脂質 (リン脂質)、コレステロール、およびポリエチレングリコール-脂質 (PEG化脂質) の4要素で構成され、「どのような成分をどのような順番でどのように混ぜるか」を最適化する必要があり、成分からプロセスまで、その組み合わせは膨大な数になる。さらに、LNPは時間とともに、整然とした最密充填の状態から緩んだ構造へと変化することも考慮する必要がある。
 
 そこで、研究チームは大量のLNPsの製造、構造解析、特性解析をハイルスープットで実行可能なパイプラインを構築した。
 
[方法]
  • Genentechの研究チームが、ロボットを利用して数時間で数千のLNP製剤を作成可能なハイスープットなLNP作成を実現した。
  • LBNLの研究チームが、小角X線散乱法 (Small-Angle X-ray Scattering: SAXS)を利用したハイスループットな構造解析を実現した。LBNLのAdvanced Light Source https://als.lbl.gov/ のバイオロジカルSAXSビームラインでは、サンプルを凍結または結晶化する必要がなく、本来の構造に摂動を与えることなく生理的温度かつ時系列で、構造を捉えることができる。
  • さらに、Genentechの研究チームが、LNPがどのように標的細胞の遺伝子発現に影響を与えるかを解析するプロセスも高速化した。
  • こうした技術の融合によって、かっていない速さでLNPsの性能をスクリーンすることが可能になった。
[成果] 
  • LNPのカーゴとしてアンチセンスオリゴヌクレオチド (ASO) を選択して実験を進めた。
  • LNPの代表的な脂質の一つであるポリエチレングリコール-脂質 (PEG化脂質) が、LNPのサイズを決定することが報告されたが、今回、ASO-LNPのコアの構造とASOの遺伝子サイレンシング活性に影響することが明らかになった。
  • さらに、ASO-脂質コア内の無秩序相と秩序相の比によって定義される区画化 (compartmentalization) の程度が、in vitro での遺伝子サイレンシングの予測因子であることも見出し、コアの無秩序相と秩序相の比率が低いほど、遺伝子ノックダウン効果が高いことを提案するに至った。
  • こうした知見を得た上で、LNP自動調製システム、SAXSによる構造解析、in vitroでのTMEM106b mRNAのノックダウン性能の評価を統合したハイスループットスクリーニングのアプローチを具体化した。
  • このアプローチを応用して、PEG-脂質の種類と濃度を変えながら、54種類のASO-LNP製剤をスクリーニングした。多様なSAXSプロファイルを持つ代表的な製剤の構造を、クライオ電顕を用いて再構成した。この構造解析とin vitro データを組み合わせることでSARを明らかにした。
 本研究で確立した手法と成果は、ASO以外の医薬品を対象とするLNP製剤の迅速最適化へと展開可能である。
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