crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] 
  • 論文 "In vivo hematopoietic stem cell modification by mRNA delivery" Breda L, Rapp TE [..] Rivella S, Parhiz H. Science. 2023-07-27. https://doi.org/10.1126/science.ade6967 [著者所属] Children's Hospital of Philadelphia (CHOP), Perelman School of Medicine (UPenn), U Pennsylvania, U Michigan, Acuitas Therapeutics (カナダ), 
  • PERSPECTIVE "A step toward stem cell engineering in vivo - mRNA-based delivery may change the paradigm of hematopoietic stem cell gene therapy" Ferrari S, Naldini L. Science. 2023-07-27. https://doi.org/10.1126/science.adj0997 [著者所属] San Raffaele Telethon Institute for Gene Therapy, Vita-Salute San Raffaele U.
 造血幹細胞 (HSC) は、個人の一生にわたる全ての血液・免疫細胞の源である。したがって、原発性免疫不全症やヘモグロビン異常症などいくつかの遺伝性疾患の患者に対して、患者のHSCを遺伝子修復したHSCや健康なHSCと置き換える遺伝子治療のアプローチが、生涯にわたって有効な治療法になる可能性がある。

 HSC遺伝子治療はすでに行われているが、患者の造血幹細胞・前駆細胞 (HSPC) を大量に採取、生体外での遺伝子改変、遺伝子改変HSCの移植前に、その安全性と有効性の基準を満たすことを保証するための適格性の確認、同時に、骨髄で遺伝子操作された細胞が生着するスペースを確保するために患者の内因性のHSPCsを枯渇させる化学療法による前処理 (コンディショニング)、のプロセスを必要とし、ひいては、高度な設備・技術とコストを要し、また、重篤な副作用のリスクを伴い、また、スループットを上げることが近内である。

 Children’s Hospitalof PhiladelphiaのSteafano RIvellaとペンシルベニア大学 Perelman School of MedicineのHamideh Parhizが率いる研究チームは今回、HSPCsを標的とする抗体と機能的に結合させた脂質ナノ粒子 (LNP) を介して治療効果を帯びたmRNAを一過性でデリバリーすることで、より安全かつ低コストで治療効果のある生体内HSPC遺伝子治療が可能なことを、マウス骨髄において実証した。
幹細胞因子受容体 (CD117; c-KIT) を標的とする抗体で修飾した脂質ナノ粒子 (LNP) [以下、CD117/LNP]を利用することで、COVID-19ワクチンに利用されたLNPとは異なり、造血幹細胞に特異的なmRNAのデリバリーを実現した。
  • CD117/LNPを利用して、鎌状赤血球症 (SCD)をもたらすβグロビン遺伝子変異E6Vを標的とする塩基エディター (ABE) をコードするmRNAをデリバリーすることで、E6V変異がE6Aへと修正され、機能性ヘモグロビン (β様グロビン) の割合が91.7% まで向上し、鎌状赤血球がほぼ完全に修正された。
  • CD117/LNPを用いて、プロアポトーシスPUMA(p53 up-regulated modulator of apoptosis)mRNAをデリバリーすることで、造血幹細胞移植のために内因性造血幹細胞を除去するコンディショニングが可能なことを実証した。
  • 現行の毒性の化学療法や放射線照射によるコンディショニングに代わる無毒性コンディショニングにより、重症複合免疫不全症 (SCID) モデルマウスにおいて、正常なドナーからの骨髄細胞の移植・生着が実現することが実証された。
 本研究で確立された生体内で造血幹細胞を特異的に操作するアプローチは、造血幹細胞移植のための無毒性コンディショニング・レジメンを提供し、さらに、造血幹細胞移植を必要としない生体内ゲノム編集の基礎となりうる。

 「生体内幹細胞工学への第一歩」と題された「展望」記事は、マウスでの成果をヒトに展開するにあたり、解決すべき課題を論じ、また、生体外 (ex vivo) HSC工学と生体内 (in vivo) HSC工学の長所と短所を比較した上で [展望記事の挿入図HSC工学の現在と将来 参考] 、次のように締めくくられている:
"標的化LNP-mRNAが造血幹細胞遺伝子治療の次の画期的技術になる可能性があることを考えると、前臨床レベルでは、プラットフォームとプロセスの改善についてさらに研究を進めるべきである。一方、生体外 (ex vivo) 造血幹細胞遺伝子治療が、安定した持続的な臨床上の有効性を示し続けている以上、患者が早急に不当なリスクにさらされるべきではない"
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット