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科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

2023-08-16 ロングCOVIDとの類似性が言われている筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群 (myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome: ME/CFS) の創薬標的候補が同定された
[出典] NEWS "A protein that disrupts cells’ energy centers may be a culprit in chronic
fatigue syndrome" Offord C. Science 2023-08-14. https://doi.org/10.1126/science.adk3119

 米国のME/CFS患者は250万人近いとされ、極度の疲労ブレイン・フォグと呼ばれる認知障害を負っている。米国NIHの国立心肺血液研究所と国立神経疾患・脳卒中研究所の研究チームが今回、その原因の一端を捉えた [*]。
[*] "WASF3 disrupts mitochondrial respiration and may mediate exercise intolerance in myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome" Wang PY, Ma J [..] Hwang PM. PNAS 2023-08-14. 

 研究チームは、ME/CFS患者14人の筋肉細胞内のWASF3タンパク質のレベルが、健常人10人より高いレベルであることを発見した。また、WASF3は、細胞の移動に関与することが知られていたが、今回、WASF3が細胞内エネルギー工場であるミトコンドリアの機能を障害することが明らかにされた。
 
 論文 [*] の責任著者のPaul M Hwangは、「ME/CFSおよびロングCOVIDにおける極度の疲労やブレインフォグを引き起こす経路は複数あると思われ、患者によって異なる経路が関与する可能性がある」ことを認めているが、WASF3を標的とするアプローチが、ME/CFSやロングCOVIDの治療薬候補につながる可能性がある。

2023-08-15 記事タイトルを「ロングCOVIDが多臓器疾患であることが、再び裏付けられ、ミトコンドリアの機能不全との関連が示唆された」から「ロングCOVID (COVID後遺症)は、サーズウイルス2が多臓器のミトコンドリアを損傷することが一因か」に改訂
2023-08-11 初稿
 crisp_bioでは、多臓器への影響新型コロナウイルス感染症の後遺症 (罹患後症状); ロングCOVID」の記事内の2021年8月11日の項で、Science Reports 誌2021年刊行論文から右図の図を引用していたが、今回、ロングCOVIDが多臓器疾患であることが、論文、学会発表、米国CDCの発表をベースとした2023年8月10日の一般向けForbes 誌の記事でも紹介された。
[出典] "コロナ感染、肺の回復後も心臓や腎臓に後遺症 新たな研究結果が示唆" Johnson A (Forbes Staff). Forbes JAPAN 2023-08-10. https://forbesjapan.com/articles/detail/65192
 
[論文1から] COVID-19から肺が回復した後でも、長期にわたり心臓や肝臓、腎臓に後遺症が残る可能性があるとする研究結果が発表された
- サーズウイルス2感染は、ミトコンドリアの形態を改変し機能不全を引き起こす
 
 サーズウイルス2は、その複製と増殖に宿主のヒト細胞を利用する。Guarnieriらは今回、COVID-19患者のヒト鼻咽頭サンプル (700件)と剖検組織 (35件)、サーズウイルス2に感染させたハムスターとマウスの組織を分析した。その結果、ウイルスが細胞核にコードされているミトコンドリア遺伝子と、細胞内小器官の一つであるミトコンドリア内にコードされたミトコンドリア遺伝子の双方の発現を阻害し、その結果、宿主のミトコンドリア機能が損なわれることを発見した。宿主細胞は、自然免疫防御とミトコンドリア遺伝子発現を活性化することによってそれを補おうとするが、ミトコンドリア機能が慢性的に障害されると、最終的には臓器不全などの重篤なCOVID-19の後遺症を引き起こす可能性がある。
 
 本研究から、肺組織からはサーズウイルス2が排除されてミトコンドリア機能が回復しても、心臓、腎臓、肝臓、リンパ節のミトコンドリア機能は障害されたままであることが明らかにされた。

[注] ミトコンドリアの機能解説図 [J Clin Invest 2018のFigure 1参照] 

[論文2から] ロングCOVIDが慢性腎臓疾患や急性腎臓損傷の一因となっている
 
 COVID-19感染者48名を対象とした分析結果:軽症のCOVID-19は、急性腎障害を伴わない軽度の腎障害を伴う。腎機能の変化は、急性期におけるクレアチニンクリアランスの低下とアルブミン漏出の可能性に関連しているようである。クレアチニンクリアランスの低下はウイルス量によって予測されるものではなく、少なくとも6ヵ月間持続するロングCOVIDの症状と思われる。

[論文3から] COVID-19ワクチン接種によって、後遺症の発症リスクを減らせる可能性がある
 
 ロングCOVIDに関する研究報告を精査し、63件の研究報告をメタ解析した結果 (ワクチン接種後14〜42日の時期と112〜139日の時期を比較) :ワクチンは、サーズウイルス2の感染、入院、および死亡に対し有効であるが、時間の経過とともに低下する。オミクロン変異体に対する従来型ワクチンの有効性は、他の変異体よりも著しく低い。したがって、パンデミックを長期的に管理するためには、ワクチン接種以外の予防対策(例えば、フェイスマスクの着用や物理的な距離の取り方)が必要と思われる。

[Forbes記事引用論文]
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