[出典] WORLD VIEW "Predatory journals entrap unsuspecting scientists. Here's how universities can support researchers" / "How universities can assist in foiling predatory journals" Boukacem-Zeghmouri C. Nature 2023-08-15/08-17. https://doi.org/10.1038/d41586-023-02553-1 [著者所属] Information and Communication Sciences, Claude Bernard University Lyon 1
ハゲタカジャーナル [*1、2] は科学にもたらされた災いである。ハゲタカジャーナルは、掲載料を徴収し、適切な査読を経ずに、または、全く査読を受けないまま、論文を出版し、最終的には研究者の時間と資金を浪費し、科学に対する社会の信頼を損なっている。しかし、研究者がなぜこのようなジャーナルに論文を投稿するのかを理解しようとする研究は、これまでほとんど無かった。
著者 (Boukacem-Zeghmouri)らは、2018年に米国連邦裁判所から詐欺的なビジネスで5,010万米ドルの損害賠償を命じられたが、まだ事業を続けている出版社OMICS のジャーナルで論文を執筆したことのある研究者2,200人を調査し、86人から回答を得、調査結果を2023年6月にプレプリント サーバにて公開した [*3]。著者は、調査をしたことでハゲタカジャーナルに対するそれまでの認識が大きく変わり、ハゲタカジャーナルの有害な影響力に歯止めを掛けるべく大学を含む研究機関が取るべき措置が見えてきた、としている。
回答者のほとんどは中低所得国 (low- and middle-income countries, LMICs) 出身であった。LMICsにおける熾烈で不公正な学術システムの中で生き延びていく手段と考えて、意図的にハゲタカジャーナルに投稿する研究者がいることには、驚かなかった。アルジェリア出身の著者は、LMICの研究者が困難な研究環境条件に直面していることを知っている。特に出版社がオープンアクセスモデルに移行しつつある現在、多くのLMIC研究者が複雑な今日の科学論文出版を乗り切っていくことに苦しんでいる。そもそも、LMICの研究者は英語力に乏しいことが多く、科学論文の出版規範に関する知識も限られている。
そうした理解の上でも、回答者の多くが漂流しているように見えたことが衝撃であった。自分がハゲタカジャーナルの餌食になっていることに気づいていなかったのである。何人かの回答者は、著者らをジャーナルの出版社からと勘違いし、調査メールに論文を添付して返信してきた。コメントには、「次の迅速な出版」に対する事前の感謝や「ドル建てでいくらかかるのか」という質問があった。
研究者個人だけではなく、研究機関もまた、論文出版の規範に関する基本的な教育を、特にLMICsの研究者に提供することに、後れを取っている。ハゲタカジャーナルはこの教育の空白につけ込んで、知識のない研究者を、何の障害もない迅速な出版に慣れさせる。一度慣らされてしまうと、スピードと質を混同して、こうしたハゲタカジャーナルに戻り続ける著者もいる。ある回答者は「OMICS はオープンアクセスで、比較的わかりやすく、タイムリーです。旧態依然とした学会誌よりもはるかに手間がかからず、傲慢でもありません」と書いている。
回答の中には、詐欺的であることに気づき、出版前に論文を撤回しようとしたが、時すでに遅し、ハゲタカジャーナル側はとにかく出版した例もあった。このような証言から、研究者がいかに"publish or perish"という文化に脆弱であるかを理解した。また、このような経験を恥と感じ胸に秘めていることも珍しくない。
何人かの回答者は、論文をプロセスする手数料(article-processing charge: APC)の2回目の支払いを要求されたり、電話、電子メール、ソーシャルメディア上で絶え間なくメッセージを送りつけられたり、脅迫されたりといった、サイバー犯罪の域に及ぶ経験を明らかにした。ハゲタカジャーナルの代表者による物理的な脅迫に言及した回答も2件あった。ある著者は、同意なしに掲載された論文のAPCを支払うよう「電話やメールで何度も責められた」と書いている。これらの証言や助けを求める声に直面し、著者は無力感を覚えた。
研究機関は、このような経験から研究者を守るための教育を提供し、研究文化を醸成することができる。そのための優れたリソースはすでに存在する: Think Check Submitは、40以上の言語で利用可能なジャーナルのチェックリストで、研究者が信頼できるジャーナルを選択する助けになる。一方で、不足しているのは、現地の言語による「科学出版のプロセス、その文化や規範、その中をナビゲートするための戦略」の説明である。これには、研究者がアイデアを交換し、質問し、経験の豊富な同僚と議論できるフォーラムを含めることができる。リソースは、複雑なオープンアクセスシステムを理解する方法やプレプリントのアーカイブの重要性に関する情報を提供し、また、研究者に論文出版の規範を教えるべきである。
ラテンアメリカの健全なオープンアクセス出版環境は、その好例である。この地域の研究者は、大学、図書館、資金提供者といったエコシステム全体によって支援され、認知されている学術誌で出版することができる。研究機関は、在職期間や昇進の査定を行う際に、現地の学術誌での出版を考慮する。ブラジルで始まったSciELO (Scientific Electronic Library Online) / Clarivateによる紹介 はその象徴的な例で、電子科学ジャーナルの共同組合であり、研究者が科学電子出版のプロセスをナビゲートするために必要なスキルを身につけることを可能にしている。
LMICsの研究機関と裕福な国 (wealthy countries) の研究機関との間のパートナーシップも、研究者が出版物にアクセスし、国際的な科学コミュニティと統合するのに役立つ。双方の研究機関が客員研究者を受け入れたり、メンターを提供したり、研究者に論文の書き方や発表の仕方を教えたりといった取り組みが考えられる。
研究機関はまた、論文出版が研究者のキャリアと評価を決定する唯一の基準ではないことを、保証することができるはずだ。研究者は、教育やアウトリーチを含む多くの活動を通じて知識を共有しているのだから。
ハゲタカジャーナルは、研究機関と研究者の間のギャップを餌食にしている。警戒心を抱くことによってのみ、研究機関は研究者を、嫌がらせや詐欺、正当な出版社の手に渡れば世界に貢献できたかもしれない論文の浪費から守ることができる。
[*] 引用crisp_bio記事とプレプリント
- 2023-06-14 AIを駆使するであろう論文工場 (research paper mill)との戦いに備える.
- [20230324更新] Predatory Reportsが、MDPIのすべてのジャーナルを"ハゲタカジャーナル"と認定.
- "Profiles, motives and experiences of authors publishing in predatory journals: OMICS as a case study" Boukacem-Zeghmouri C, Pergola L, Castaneda H. Archives overte HAL. 2023-06-15 (preprint)
- ”Hundreds of ‘predatory’ journals indexed on leading scholarly database - Scopus has stopped adding content from most of the flagged titles, but the analysis highlights how poor-quality science is infiltrating literature" Singh Chawla D. Nature 2021-02-08. h
- "Why India is striking back against predatory journals - Our foe is determined and adaptable, says Bhushan Patwardhan. A list of credible titles is the latest salvo in the fight against shoddy scholarship." Bhushan Patwardhan B. Nature 2019-07-02.
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