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[注] dCas13: RNAエンドヌクレアーゼ活性を失活させたCas13a
[出典] "Programmable multi-kilobase RNA editing using CRISPR-mediated trans-splicing" Borrajo J, Javanmardi K [..] Blainey PC, Al-Shayeb B. bioRxiv 2023-08-18 (preprint). https://doi.org/10.1101/2023.08.18.553620 [著者所属] Amber Bio Inc, MIT, Broad Institute of MIT and Harvard, Koch Institute for Integrative Cancer Research

[背景]
 
 真核生物では、ゲノムDNAから転写されたpre-mRNA (mRNA前駆体) が成熟mRNAへとプロセスされる。そのプロセスの一つがスプライシングである。スプライシングは、大型のリボヌクレオタンパク質(RNP)複合体であるスプライソソーム [PDBj入門 今月の分子 245参照] が、同一のpre-mRNA内で、上流のスプライス供与体 (splice donor: SD) を下流のスプライス受容体 (splice acceptor: SA)に結合させることで、イントロンを除去したエクソンを選択的に結合させ、遺伝子産物が産生されるに至る過程である。ほとんどの遺伝子産物は、このシス (cis) で進行する過程で産生されるが、一部の遺伝子産物は、トランス (trans) で進行する過程を経て産生される。すなわち、スプライソソームが、あるpre-mRNA (以下, A) 上のSDを、別のpre-mRNA (以下, B) 上のSAに結合させることで、AとBとに由来する単一のキメラmRNAが生成される場合がある。
 
 シスとトランスのいずれのスプライシングにおいても、その異常は、病原性をもたらすリスクを伴っている。一方で、Spliceosome-mediated mRNA trans-splicing (SMaRT) といったトランススプライシングを人工的に誘導することで病原性スプライシングを修復する治療法の研究が進んでいる [*1, 2] 。しかし、これまでのトランススプライシングの誘導はRNA-RNAはイブリダイゼーションに依存していることから、編集効率や特異度が低く、臨床へへの展開が進んで来なかった。著者らは今回、RNA誘導型でRNAを標的とするCRISPR-Cas13の不活性型dCas13-sgRNAをガイドとして利用して、数キロ塩基の長さの修復用のSA RNA (repair RNA: repRNA) を標的とするスプライシング部位の近傍へと誘導するというアプローチで、高効率で高精度なトランススプライシングを実現し、"Splice Editing" (スプライス編集) として投稿した。

[設計概念]
 
 多様なCRISPR-Casシステムの中で、CRISPR-Cas13ファミリーは、2つのHEPN (Higher Eukaryotes and Prokaryotes Nucleotide-binding) endoRNaseドメインを備えており、バクテリアやアーケアにおいて、侵入したウイルスのmRNA転写産物を切断する適応免疫を担っている。
 
 CRISPR-Cas13のRNAターゲッティング能力は、RNAの特異的ノックダウン、RNAの可視化、RNAの塩基編集、エクソンスキッピング、標的RNAのメチル化に向けたツールの開発に利用されてきた。著者らは今回、HEPNが帯びているRNAアーゼを不活性化したCas13変異体 (dCas13) を利用して、トランススプライシングrepRNAをリクルートし、同時にSAまたはSDを標的としてシススプライシングを阻害することで、これまでになく効率的なトランススプライシングが達成できる、と構想した。
 
 この構想を実現するために、dCas13を誘導するRNA (gRNA)、RNA結合タンパク質 (RBP)と融合したdCas13、目的のエクソンまたはエクソン群とRBP結合ヘアピンを持つ人工イントロンを含むrepRNAからなる特異的CRISPR RNAガイド複合体を設計した。
 
 CRISPRを介したトランススプライシングであるSplice Editingは、CRISPR-Cas RNPとrepRNAの複合体を標的プレmRNAに結合させることで実現する。dCas13-RBPはcis-SAに結合してブロックし、同時にスプライス用repRNAをリクルートし、効率的かつ特異的なトランススプライシングを可能にして遺伝子の内因性転写産物を修正する。

[成果]
 
 はじめに、HEK293FT細胞においてSplice Editingを評価するために、標的SDと修復用repRNAがトランスで2つのGFPエクソンを結合して完全なGFPをコードする配列を再生するために正確なトランススプライシングを受けなければならない合成レポーター系を構築した。レポーターのトランススプライシングが設定通り進行した細胞は、フローサイトメトリーで定量できる機能的なGFPタンパク質産物を産生する。

 続いて、RNAバクテリオファージゲノムから得たRBPのパネルと融合したPrevotella sp.由来のdCas13b変異体 (PspCas13b) を選択して概念実証実験を進めた。RBP結合ヘアピン、GFPとmCherryをコードするエクソン、マトリックスメタロペプチダーゼ9(MMP9)イントロン1のSDの下流部位にハイブリダイズする結合モチーフ (BM) を含むrepRNAを設計した。MMP9スプライスアクセプター部位を標的とするgRNAを用いると、MS2バクテリオファージコートタンパク質(MCP)が試験したRBPの中で最も高いレベルのスプライス編集活性を示し、24%の細胞で標的転写産物の3'末端に2kbの長さの挿入に成功することが観察された [bioRxiv 投稿 Figure 1参照]。
 
 著者らは、PspCas13bをベースとするSplice Editingの最適化、ABI1/PYL1システムとABAの利用による調整が可能なSplice Editing [bioRxiv 投稿 Fig 2参照]、および、AAVによる送達の観点から、新たな小型エフェクターのグループCas13eの発見 [bioRxiv 投稿 Fig. 3参照]、dCas13eをベースとするSplice Editingによる大規模で複雑な変異を帯びたUSH2A変異遺伝子 (~800 kb, 72 エクソン; アッシャー症候群2の責任遺伝子) の修復、などを実現した。

 本研究は、スプライス・エディターとしての活性を帯び、生体内へとAAVによる送達が可能なコンパクトなCRISPR-Cas13システムに到達した。ゲノムDNAに影響することなく、数千塩基のRNAを一段階で内因性転写産物に特異的に挿入するアプローチは、安全かつ可逆的な方法であり、また、遺伝性疾患をもたらすほとんどの機能喪失変異に対処できる可能性を帯びている。

[*] Spliceosome-mediated mRNA trans-splicing (SMaRT) 関連資料

1. REVIEW "Therapeutic applications of trans-splicing" Hong EM, Ingemarsdotter CK, Lever AML. Br Med Bull. 2020-12-15. https://doi.org/10.1093/bmb/ldaa028 [著者所属] U Cambridge.
 
[背景] 
 RNAトランススプライシングは、異なるプレmRNA転写産物のエクソンを結合してキメラ産物を生成する。トランススプライシングはタンパク質レベルでも起こり、スプリットインテイン [PDBj入門 今月の分子 131参照] が別々の遺伝子産物の結合を仲介し、成熟タンパク質を生成する。

[データ源]
 データ源 Pubmedを用いた研究論文および総説の包括的文献検索。

[共通して認められている点]
 一致点 トランススプライシング技術は、in vitroとin vivoの両方のモデルにおいて、様々な疾患をターゲットとするために使用されており、RNA、タンパク質、機能的な修正をもたらしている。
 
[議論のある点] 
 オフターゲット編集が治療上望ましくない結果をもたらす可能性があり、また、生体内へのデリバリーや生体内での有効性が一般的に低い点を、解決する必要がある。

[課題と期待]
 トランススプライシングは、新しい治療法を開発するための有望な手段となる。しかし、前臨床試験へ発展させるには、さらに多くの研究が必要である。

[時宜を得た研究領域]
 合理的な設計、スクリーニング、内因性シス型スプライシングの競合的阻害により、トランススプライシングの有効性と特異性を高める。

2. PROTOCOL "SMaRT for Therapeutic Purposes" Riedmayr LM (Ludwig-Maximilians-Universität München). Methods Mol Biol. 2020;2079:219-232. https://doi.org/10.1007/978-1-4939-9904-0_17

 スプライソソーム を介したmRNAのトランススプライシング (Spliceosome-mediated mRNA trans-splicing: SMaRT)は、古典的な治療法では標的とすることができない遺伝性疾患の治療に有望な戦略である。
 SMaRTは、外因性のプレmRNAトランス・スプライシング分子(pre-mRNA trans-splicing molecule: PTM)を利用して、 病原性の内因性プレmRNAを修正する。このプロセスは、2つの別々のプレmRNA分子をトランスでスプライシングし、PTMのタンパク質コード配列と内因性mRNAからなる成熟キメラmRNA分子を作り出すことに依存している。
 
 SMaRTを治療法として有効にするために最も重要なステップは、トランス-スプライシングの比率が通常のシス-スプライシングよりも高くなるようなPTMを開発することである。このプロトコルでは、PTMをデザインする方法のガイドラインを提供し、その効率をテストするための高速スクリーニングアッセイについて述べ、その効率を試験するための高速スクリーニングアッセイについて説明する。また、よりネイティブな環境におけるベストなPTMの治療可能性を解明するために、ミニ遺伝子でさらにテストする。
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