[出典]
  1. "Postacute sequelae of COVID-19 at 2 years" Bowe B, Xie Y, Al-Aly Z. Nat Med 2023-08-21. https://doi.org/10.1038/s41591-023-02521-2 [著者所属] VA Saint Louis Health Care System, Veterans Research and Education Foundation of Saint Louis, Washington U School of Medicine.
  2. "Late Mortality After COVID-19 Infection Among US Veterans vs Risk-Matched Comparators - A 2-Year Cohort Analysis" Iwashyna TJ, Selye S, Berlowitz TS et al; VA HSR&D COVID-19 Observational Research Collaboratory. JAMA Intern Med. 2023-08-21. https://doi.org/10.1001/jamainternmed.2023.3587
  3. "Long-Term Long Covid - New reports at two years and the known unknowns that lie ahead" Topol E. Ground Truths 2023-08-21. https://erictopol.substack.com/p/long-term-long-covidスクリーンショット 2023-08-22 13.35.24
 Eric Topolが2023年8月21日にNature Medcicine誌 [1]とJAMA International Medicine誌 [2]からそれぞれ刊行された2論文をGround Truths [3]にて「10万人以上のCOVID感染者と数百万人の非感染者の2年間の追跡調査に関する2つの新しい論文は、すでに何千万人もの人々の生命を危険にさらしているロングCOVIDに関する我々の知識の基盤が不確かなことを、明らかにした。残念なことに、6ヶ月の時点で見られたことは、2年後もほとんど続いている」と、以前の図の"six months"を"two years"に差し替えた図と共に、紹介した [右図参照]。
 
Nature Medicine 誌刊行論文

 この論文は、米国退役軍人の比較的大規模なコホートをベースにCOVID感染症に関して価値ある報告を発表してきたZiyad Al-Alyらの研究チームからの報告であり、140,000人近いCOVID患者 (入院患者 20,580人;非入院患者 118,238人) と、ほぼ600万人の非感染者を対象に、感染後2年経過した時点で、10種類の器官にわたる80種類の後遺症 (sequelae) と障害調整生命年 (Disability-adjusted life year: DALY) を比較解析した結果を報告している。

 入院した重症のCOVID患者は、入院しなかった軽度から中等度のCOVID患者と比較して、転帰とDALYが悪化していたが、入院しなかった群でも、消化器系や神経系を含む80の後遺症のかなりの割合 (約30%) が有意に高いままであった。またDALYの約20%は両群とも2年目に由来した。

 80種類の後遺症のリスクを入院群と非入院群とで比較したところ重症度にはかなりのばらつきと幅があったが、死亡と(再) 入院は、入院群で統計的に有意に高いままであり、それぞれ、非入院群の1.39倍と2.57倍であった。

 非入院患者については、複数の主要臓器系にわたってかなりのリスクが残っているにもかかわらず、80種類の後遺症の多くが2年後には統計的に有意ではなくなったといた。また、わずかな割合ではあるが、時間とともに完全に回復する人もおり、新たな種類の後遺症のリスクも出現しなかったことは朗報である。

 本論文の課題は、解析対象となったコホートの90%が男性であり平均年齢が61歳という人口統計の偏りにあり、ロングCOVIDに多く見られる30-39歳の女性が含まれていない点である。また、2年間の追跡調査を行うには、COVID感染の時期、ウイルスの変異の進行とワクチン接種の種類と時期などの、より多様な感染者をカバーするコホートを対象とする解析が望まれる。

JAMA International Medicine 誌刊行論文
 
 Theodore Iwashynaらの報告は、208,000人以上の退役軍人のCOVID感染者について、複数の人口統計学的特徴 (年齢、性別、人種、民族、居住地、喫煙の有無)について、マッチさせた非感染者と比較した結果である。

 全体として、COVID患者の死亡率は8.7%で、非感染者の死亡率4.1%の2倍以上であった。注目すべきことに、死亡の危険は最初の6ヵ月間に集中しており、後期死亡率の過剰は認められなかった。死亡リスクの変動を見てみると、181日目から365日目までの死亡リスクがCOVID感染者が8%低く、366日目から730日目までの死亡リスクは11%低かった。これは適者生存の反対、あるいは「感受性者の枯渇/depletion of the susceptible」と呼ばれるものによるものと考えられる。いずれにしても、COVID感染者の中で最もリスクの高い患者が、初期の期間に死亡したということが見えてきた。
 
 一方で、Nature Medicine 誌刊行論文と一致しているが、注目すべきは、入院患者の死亡リスクの持続性であり、2年間の経過の中で後期における死亡のリスクが低下あるいは無くなることは、非入院群でのみに見られた点である。

 本論文にも、Nature Medicine 誌刊行論文と同様に、コホートに偏りがある点に課題を残している。

その他のロングCOVID研究論文から
 
 Ground Trouthから引用した右図にあるように、スクリーンショット 2023-08-22 13.35.374カ国の非常に大規模な4つのコホートにおいて、様々な自己免疫疾患(関節リウマチ、多発性硬化症、バセドウ病、脊椎関節炎、乾癬など) の増加が見られた。リスクの増加は一貫しており、その範囲は〜20%から150%をはるかに超えるものであった。Pengらによる最新の報告 [eClinicalMedicine 2023-08-16]は、ワクチンが自己免疫疾患の発症を予防することを示唆している。

 これら4つの報告は、今回のNature Medicine の報告も含め、2年間の研究の中で自己免疫疾患の発生率を総合的に評価したものがなかったという点で注目に値するが、長期にわたるロングCOVID研究には、ワクチン接種者を含める必要がある。

 糖尿病についても、2023年8月に、イギリスの1,500万人の2型糖尿病に関する新しい報告がプレプリントサーバのmedRxiv から公開された。COVID感染後の2型糖尿病の発症率の上昇は、非入院患者よりも入院患者でより大きく、より長く持続するが、ワクチン接種後の患者ではこの傾向が顕著ではなく、ワクチン接種の糖尿病減少効果 (対ワクチン未接種) は極めて大きいことが報告され、COVID重症化後の2型糖尿病の検査とワクチン接種の促進が必要なこをと教えてくれている。

 動脈硬化についても、2023年8月に、新たな報告がプレプリントサーバーbioRxiv から公開された。最近の研究で、8人の小規模コホートではあるが、剖検時に冠動脈の動脈硬化病変でSARS-COV-2ウイルスRNAが検出され、それが複製可能であることが示された。さらに、アテローム性動脈硬化症の血管エクスプラントからSARS-CoV-2のマクロファージ感染によって炎症が誘発されることが示された。この報告は、ヒトの冠動脈にウイルスが存在することを示した最初のものであり、もしCOVIDによって冠動脈の動脈硬化が促進されれば、急性期には見られなかった重篤な心血管疾患が長期に渡って進行する可能性がある。同様に、COVID感染者であったが他の理由で死亡した人の剖検で、頭蓋骨の骨髄と脳にSARS-CoV-2のスパイクタンパク質が認められたことは、脳の神経炎症に関する懸念も高めている。

[注] Ground Truthsでは、冒頭の2論文からはじまるここまでの論文に加えて、全身PETと大腸組織の生検をベースとする報告を含む「その他の"2年後"ロングCOVID研究」も紹介されている。

COVID感染から10年後、20年後はどうなる

 過去のパンデミックから、パンデミック当時には予期せぬことが何年も後に顕在化することがあることを我々は知っている。
  • 1918年のインフルエンザ大流行の後、何年も立ってから、インフルエンザ感染に伴うパーキンソン病の罹患率の増加が指摘された。1888年から1924年の間に生まれた人、つまりパンデミック発生時に乳幼児であったか青年期であった人は、それ以外の時期に生まれた人に比べて、人生のある時点でパーキンソン病を発症する可能性が2-3倍高かったようである。さらに最近では、インフルエンザ感染後10年以上経過した61,000人以上を対象としたデンマークの症例対照研究において、同様の関係が認められた。
  • ポスト・ポリオ症候群(PPS)は、ポリオに感染し回復してから15年から40年経って初めて認められるもので、特徴的な筋力低下と萎縮が見られる。
 これらは、ウイルスに大量に暴露された後、最初の2年間の追跡調査では見られなかった結果のほんの一例に過ぎない。

まとめ

 COVID感染から2年経過した時点で、入院経験がある患者の間では、症状や多臓器病変が持続し、かなりの負担となっている。しかし、誰が長期にわたるロングCOVIDに悩まされることになるかは予測不可能である。また、有効な治療法は未だ存在しないロングCOVIDは、すでに苦しんでいる人々の大部分だけでなく、これから新たに感染する人々や再感染した人々の間でも、時間をかけて進行する。

 ロングCOVIDとして認識されてき症状や臓器機能障害を超えて、我々はまだ暗闇の中にいる。インフルエンザやポリオの何年も後に起こったような予期せぬ遅発性の有害転帰であれ、明らかに影響を受けている臓器系の二次的転帰であれ、あるいは自己免疫状態や炎症促進経路の促進を介して、動脈硬化のリスクを悪化させる可能性であれ、COVIDの後遺症を完全に知るには何年もかかるだろう。加えて、サーズウイルス2がヒトに損傷をあたえる分子機構を完全に理解するには、さらに、何年にもわたる追跡調査が必要であろう。その一方で、既知の感染予防戦略を超えて、ロングCOVIDに苦しむ人々を治療する効果的な方法を見つけることが、緊急かつ最優先の課題である。