[注] 08-26 9:35 AMにテキストを英王立協会のWebページに準拠して全面改訂
[出典] "Packages of non-pharmaceutical interventions with complementary effects unequivocally reduced COVID-19 infections, finds major Royal Society report" The Royal Society 2023-08-24. https://royalsociety.org/news/2023/08/npi-report-launch/;報告全文 [Executive summary ; Full reportスクリーンショット 2023-08-26 8.04.40

エグゼクティブ・サマリー (Executive summary)の緒言の結びの段落から [右図はその表紙]
 
 ... しかし、これまでに類を見ない世界中の科学力 (scientific capability) が結集されたにも拘らす、パンデミックの最初の1年の大半は、サーズウイルス2の感染を遅らせる唯一の手段は医薬品以外の介入 (non-phamaceutical intervensions: NPIs) しかなかった。当時、感染して重症化した人々には 薬やワクチンといった特別な治療法や予防法はなかった。多くの命を救ったのは、酸素補給、肺換気、その他の高度な生命維持手段といった現代医学の手法であったが、それらも、感染を遅らせることはできなかった。

報告書をとりあげた報道の例

 ロックダウンとフェースマスクがCOVIDの感染拡大を抑制したことが ‘明々白々’ 
報告書概要

 NPIsとは、感染症の伝播を減少させることを目的としつつ、薬やワクチンではない対策を意味する。

 この報告書「COVID-19:医薬品以外の介入策の有効性を検証する」では、数千の論文を精査した結果に基づいて、サーズウイルス2の感染を減少させる効果についてレビューしている。

 多種多様なNPIsを個々に評価すると、限定的ではあるが、感染抑制効果を示すエビデンスが得られた。
しかし、各国がNPIsをパッケージとして組み合わせて使用した場合、その効果は明らかであり、少数の国や地域では、パンデミックの最初の18ヶ月間、感染者を極めて少数に抑えることができた。さらに、NPIは感染が広がりすぎていない段階 (the intensity of transmission was low) に最も効果的であることを示すエビデンスがあり、パンデミックの初期や再流行の兆しがあるときに使用すると効果的 [**]であった。
[**] crisp_bio: 例えば、日本での5類指定後の第9波と思われる感染者増加の段階 

 NPIsは通常新興感染症に対してワクチンや治療薬などの医薬による治療法が開発される前の初期段階で利用できる唯一の対策である。一方で、COVID-19パンデミックで正に見られたように、NPIの使用は個人的、教育的、経済的に悪影響を及ぼす可能性がある。
 
 英国王立協会の外務大臣であり、報告書の専門家作業部会の議長であるProfessor Sir Mark Walportは、次のように述べている:
  • COVID-19は、人類史上初のグローバルなパンデミックであり、医薬品以外の介入策を用いることで、多くの命を救う効果的なワクチンや治療法が開発されるまでの時間を稼ぐことができた
  • この報告書は、どのNPIが、どのような状況で、感染を抑えるのに役立ったのか、という重要な疑問に答えようとしている。
  • サーズウイルス2の感染の拡大を抑制するのに、相補的なNPIsのパッケージを早期に厳格に実施することが疑う余地なく (unequivocally)有効であったと結論づけるに十分なエビデンスがある。
  • 得られたエビデンスは、すべてのNPIが、すべての状況で、有効であることを支持しているわけではないが、今回のパンデミックで得られた豊富な研究から教訓を学ぶことで、私たちは次のパンデミックに備えることができる。
 この報告書は、英王立協会が招集した専門家作業部会が、数千の研究報告を調査し、厳格な基準に基づいて取捨選択した上で、NPIsの6種類のカテゴリーのエビデンスをレビューしたものであり、8月24日に専門誌『Philosophical Transactions of the Royal Society A 』の特集号として発表された:
  1. 社会的距離 (Social distancing) の確保とロックダウン
  2. マスクの着用と義務付け
  3. 検査・追跡・隔離
  4. 出入国管理
  5. 環境管理
  6. 感染症対策に関するコミュニケーション
 パンデミックの間、少数のランダム化比較試験 (randomised controlled trials: RCT) が実施されたが、利用可能なエビデンスの大部分は観察研究によるものである。RCTによらない観察データ (observational data) の使用は、レビューから導き出される結論の精度に影響するが、報告書は、含まれる多数の、質の高い、厳密に実施された観察研究から、NPIsの有効性が明確に示された、とした。

1. 社会的距離 (Social distancing) の確保とロックダウン
  • 最も効果的なNPIのカテゴリーであった。
  • 自宅待機命令、物理的隔離、集会規模の制限は、サーズウイルス2の伝播の抑制と繰り返し関連 (associated)しており、より厳格な対策がより大きな効果を持つことが判明した。
  • 介護施設では、集団隔離 (cohorting) や面会者の制限などの対策が、感染の抑制やアウトブレイクの抑制に関連していた。
  • 学校環境では、閉鎖やその他の距離を置く措置がCOVID-19の発症率の減少に関連していたが、その効果は、遵守状況や児童生徒の年齢など、さまざまな要因によって異なっていた。
2. マスクの着用と義務付け
  • 感染を抑制する効果的なアプローチであると、すべての状況について普遍的というわけではないが、その効果が一貫して報告されている。
  • また、主に医療現場での研究から、サージカルマスクよりも質の高い「レスピレーター」マスク(N95マスクなど)の方が効果的であったというエビデンスも見られた。
3. 検査・追跡・隔離
  • サーズウイルス2の感染者とその接触者を隔離し、高レベルの接触者追跡を実施した数カ国の研究では、COVID-19による死亡が減少した。
  • 接触者追跡アプリの有効性についても強力なエビデンスが見つかった。特に、Wight島で行われた英国のアプリの試験 (コミュニケーションと手作業での追跡も併用)では、感染の大幅な減少が見られた。
4. 出入国管理
  • 国内の事例研究から得られた観察的エビデンスによると、さまざまな出入国管理により、国内に入国する感染した旅行者の数を減らすことはできるが、ゼロにすることはできなかった。
  • 入手可能なエビデンスに基づくと、入国時の検疫が最も高い有効性を持つことが明らかになった。一方で、渡航前の検温を含む、症状や検査に基づくスクリーニングは、感染者の入国や感染の減少に意味のある効果はなかったことが、明らかになった。
  • 報告書全文では、日本の出入国管理が以下のように取り上げてられている:"It should be noted that stringent international border control measures were also implemented with some success in countries such as China, Hong Kong, Japan, Malaysia, Singapore, South Korea and Vietnam which are more densely populated and less isolated "
5. 環境管理
  • 換気の強化、空気清浄化処理、部屋の占有率 (ヒトの密度)が、特定の環境下で感染を減少させたというエビデンスが得られた。しかし、これらの対策は通常、他のNPIsと組み合わせて適用されていたため、その効果を正確かつ個別に定量化することは不可能であった。
6. 感染症対策に関するコミュニケーション
  • 英国においてコミュニケーションは、人々にNPIsの遵守・実行 (adherence) を促すのに十分効果的であったことが確認された。
  • 一方で、メッセージの明確さと一貫性、そして、コミュニケーションを行う人々に対する信頼と信用が鍵であることも明らかになった。
  • ソーシャルメディアを介したコミュニケーションは、"従来のメディアを介したコミュニケーションに比べ、種々の制約の遵守と関連する可能性は低い "ことを示唆するいくつかのエビデンスがあった。
 報告書は、今後の再興感染症や新興感染症のパンデミックに先立ち、NPIsに関するRCTや観察研究を実施するための国際的なプロトコルを確立することを推奨している。

 報告書はまた、NPIsのベネフィットだけでなくコストの評価も行われるべきであるとしている。すなわち、生活、経済、教育、社会的一体性 (social cohesion)、身体的・精神的ウェルビーイングへの影響という観点からの評価が行われるべきである。