[出典] "Whole genomic analysis reveals atypical non-homologous off-target large structural variants induced by CRISPR-Cas9-mediated genome editing" Tsai HH [..] Yu J. Nat Commun. 2023-08-25. https://doi.org/10.1038/s41467-023-40901-x [著者所属] Chang Gung Memorial Hospital at Linkou, Institute of Biomedical Sciences (Taipei), Institute of Cellular and Organismic Biology (Taipei), , Genomics Research Center (Taipei), National Taiwan U Hospital and School of Medicine, UCSF (兼任), UCSF (兼任)
[背景]
iPS細胞とCRISPR/Cas9技術の融合が細胞療法を前進させている。例えば、MHCクラスIおよびII遺伝子を不活性化し、CRISPR-Cas9ゲノム編集によってCD47を過剰発現させることで、自家免疫細胞に依存しない健常人由来のオフザシェルフのヒトiPS細胞による細胞療法の可能性が広がってきている [*1]。しかし、この手法は、未だ、CRISPR-Cas9を利用することに由来する望ましくない編集結果を回避する課題を伴っている。
[ポイント]
台湾の研究チームが今回、iPS細胞のCRISPR-Cas9ゲノム編集の結果、ヒト胚のCRISPR-Cas9ゲノム編集においてこれまでに報告されてきたオンターゲット部位での大規模な染色体構造変異に加えて [*2-9] 、sgRNAと配列が類似していない典型的な非相同オフターゲット部位でも、大規模な染色体欠失 (91.2Kbと136Kb) が発生することを発見した [Fig 2とFig 4引用下図参照]。
[成果]
研究チームは今回、ショートリード・シーケンシングに替えて、10xGenomics によるlinked-read sequencing (以下、LRS) とオプティカルゲノムマッピング(optical mapping ) 以下、OGM) を併用することで、iPS細胞において、CRISPR-Cas9ゲノム編集が誘導する大規模な染色体構造変異 (SV) の同定を試みた。その結果、癌抑制遺伝子 B2M(-/-) ノックアウトクローンではオンターゲット部位に大きなSV (136 Kb)を、ホモ型アミロイド前駆体タンパク質変異遺伝子APP c.2033G>c (APP(c/c))ノックインクローンでは非典型的なsgRNAに対して相同性を示さないオフターゲット部位においての大きなSV (91.2 Kb) を発見した。しかし、B3GALT5ノックアウト、LRRK2 (G2019S) ノックイン、および DSG2 (F531C) 遺伝子ノックインには、大きなSVは見られなかった。
研究チームが解析した13種類の編集ゲノムのうち2つは、予測されなかった非典型的な非ホモロガスオフターゲット部位に大きなSVを有していた。この2つのゲノムのうち1つは、予想されたオンターゲット部位にさらに大きなSVを有していた。CRISPR-Cas9で編集されたゲノムのうち、約15%が予想外の非相同的なオフターゲットSVを獲得していた。
本研究は、オンターゲット、予測されるオフターゲット、および予測されていないオフターゲット部位に大きな欠失が誘導されることが明らかにしたと同時に、同一iPS細胞株であっても、その内因性遺伝子編集クローンにおいて、必ずしも非相同オフターゲット部位に大きなSVが誘導されるとは限らないことも明らかになった。例えば、大きなSVは3つのB2Mノックアウト・クローンのうち1つでしか観察されなかった。
研究チームはオンターゲットとオフターゲットの双方で大きなSVが発生する場合があることを示したが、この強力なゲノム編集ツールの使用を中止することを提唱していない。その代わりに、LRSとOGMを利用した全ゲノム解析を介して、CRISPR-Cas9ゲノム編集結果を検証するアプローチを提唱している。このアプローチには、研究や臨床応用のためのクローン増殖や長期間の生体外培養の前に、CRISPR-Cas9ゲノム編集クローンのゲノムの完全性を確認するために必須になる可能性がある。
[*] 参考crisp_bio記事]
- 2021-05-24 癌患者の免疫を回避し (ステルス), 癌細胞を攻撃する(ファイター)T細胞を, ゲノム編集iPSCから作出
- [20211010更新] CRISPR-Cas9ゲノム編集はクロモスリプシスを引き起こす;Chromothripsis as an on-target consequence of CRISPR-Cas9 genome editing
- [20201212更新] ヒト胚CRISPR-Cas9遺伝子編集により染色体大混乱;Allele-Specific Chromosome Removal after Cas9 Cleavage in Human Embryos
- [20220312更新] CRISPR-Cas9によるヒト胚ゲノム編集には、安全性検証のための基礎研究がまだまだ必要;Frequent loss of heterozygosity in CRISPR-Cas9-edited early human embryos
- [20211010更新]マウス胚において,CRISPR-Cas9ゲノム編集が全染色体消失とゲノムの不安定化を引き起こす;Whole chromosome loss and genomic instability in mouse embryos after CRISPR-Cas9 genome editing
- 2018-07-17 CRISPR-Cas9が誘導するDSBの修復は、ゲノムの大規模な削除と複雑な再編に至る;Repair of double-strand breaks induced by CRISPR-Cas9 leads to large deletions and complex rearrangements
- 2019-03-10CRISPR-Cas9が誘導するDSBは,大規模な染色体短縮をもたらす;CRISPR-Cas9 genome editing induces megabase-scale chromosomal truncations
- 2022-02-02 CRISPR-Cas9は,生体内のオンターゲットおよびオフターゲット部位に構造変異を誘導し,それは,世代を超えて遺伝する ;CRISPR-Cas9 induces large structural variants at on-target and off-target sites in vivo that segregate across generations
- 2022-08-20 ウルトラ・ディープ・シーケンシングによるHSPCsのCRISPR/Cas9ゲノム編集の安全性検証;Ultra-deep sequencing validates safety of CRISPR/Cas9 genome editing in human hematopoietic stem and progenitor cells.


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