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2024-07-23 Nature Biotechnology 誌刊行論文の書誌情報と、著者らによる論文紹介記事 (Research Briefing)の書誌情報を追記し、また、Research Briefingを参考にして記事タイトルとテキストの一部を改訂
2023-09-20 bioRxiv 投稿に準拠した初稿
[出典]
 MGH, HMS, MITなどの研究チームが、次の段落に述べるプライム編集 (PE)に対して、潜在的な有利な特性を帯びている「DNA依存性DNAポリメラーゼ (DDP)をベースとしテンプレートとして一本鎖DNA (ssDNA) を利用するDNA ゲノム・エディター」であるclick editorを構築した。
PE mechanism
 プライム編集 (PE)
[右図モデル図参照]の特徴であるpegRNAは、nCas9とガイドRNAに誘導されて、標的部位に、所望の編集をコードしたRNAテンプレートを逆転写後素(RT) を介して、挿入する[PEのモデル図右図参照]。PEはこうしてRTとpegRNAに依存することから、編集の忠実度や処理能力、pegRNAのミスフォールディング、長いRNAの合成に関する潜在的な課題がある。
 
 DDPは、RTに対して、忠実度の高い重合と高い基質処理性を示し、高いdNTP親和性によりほぼすべての細胞型において酵素活性を示すと考えられる。さらに、DDPには、ユーザーがプログラム可能なDNAオリゴヌクレオチド (オリゴ) テンプレートと互換性があり、簡便性、拡張性、カスタマイズ性、化学的安定性、高い編集純度、低コスト、加えて、オリゴは広く使用され臨床的に検証されている分子であるという点で、利点があると考えられる。
 
 研究チームは今回、nCas9にDDPを融合または導入することで、これまでのCas9ヌクレアーゼやBEとPEといった塩基エディターのアプローチに優るゲノム編集ツールを実現できると想定した。また、一本鎖DNA (ssDNA) を利用することで、ゲノム編集用のテンプレートの局在化が可能になり、書き込み効率が向上するのではないかと想定した。click editor に利用するssDNAは、核酸を結合できるタンパク質またはペプチドを認識する配列 (ssDNA tethering site)、目的の編集を含む重合テンプレート (polymerization template: PT)、ニックを入れる標的部位の非標的鎖 (non-target strand: NTS)と相同性を持つプライマー結合部位 (PBS)の3つの要素で構成される [Research Briefing Fig. 1 参照]。
 
 ssDNAをリクルートするドメイン (ssDNA tethering domain) は、編集時に供給されるssDNAに対する特異性を持ち、コード配列が小さく、共有結合タンパク質-DNA付加体を触媒する迅速な動態を持ち、特殊で高価な修飾を必要としないことが、理想であるが、HUHエンドヌクレアーゼ (HUHes) がこれらの基準を満たしている。HUHは、生命のあらゆる領域に広がる小さなタンパク質であり、多様なssDNA特異的処理を行う。最小化されたHUHドメインは「HUHタグ」として生物学的応用に使用されており、HDRドナーテンプレートのCas9ヌクレアーゼベースの共有結合テザーとしても使用されている。本手法は、HUHの「クリックのような」タンパク質-基質結合生化学を利用して、ssDNAを局在化し、精密なゲノム編集を行うことから、click editor (CE) と命名し、ssDNAを click DNA (clkDNA) と称した。
  • CEは、gRNAによって標的部位にプログラム可能に誘導され、clkDNAを鋳型とした重合によって、clkDNA上にコードされたユーザー指定のゲノム改変を標的部位に挿入することが可能になる。
  • clkDNA鋳型として低コストな未修飾DNA分子を用いるという簡便さにより、編集タイプや追加のサイレント変異などのパラメーターを変化させることで、編集効率を迅速かつ安価に最適化可能である。
  • CE酵素はモジュラー型であり、さまざまなDDPドメインやHUHeドメインを利用できることも実証し、継続的な工学的最適化の可能性を明らかにした。
 CEは、野生型モロニーマウス白血病ウイルスRTを用いたオリジナルのPEと同等以上の編集レベルを達成したが、その効率は、改良が加えられた高効率PEよりも低い。この結果は、CEのモジュール性やタンパク質・核酸工学の可能性を考慮すれば、潜在的特長を活かしたまま、編集効率や柔軟性を向上させる改良が可能であると想定される。

 CEは、多様な編集タイプ (すべての置換と短い挿入または欠失) を可能とし、プログラマブルで汎用性が高く、正確なHDRおよびDSB非依存的DNA修飾が可能である。

[論文の背景]


 著者ら (C.J.TとJ.F.d.S)は当初、ssDNAトランスポーザブルエレメントにおけるHUH酵素の機能を通して、HUH酵素に魅了された。ミネソタ大学のGordon研究室は、HUHタグの設計と応用のパイオニアであり、最小限のHUHeドメインをssDNA-タンパク質結合のプラットフォームとして用いている (相同性指向性修復によるゲノム編集の促進を含む) [*1]。また、以前の研究 [*2]に基づいて、DNA依存性DNAポリメラーゼの特性にも興味を持ち、最終的にはHUHタグ、CRISPR-Cas酵素、DDPの間の相乗効果を認識するに至った。
 これらの点を結びつけることで、Cas酵素とssDNAテンプレートをユニークな方法で活用し、ゲノムを編集することが可能になった。
 Click editorは、HUHe酵素とそのssDNA基質が「クリック」のようにバイオコンジュゲーションすることから命名した。また、その名前は、これらの遺伝子編集ツールの使用が、ワープロ文書のテキストをクリックして編集することに似ていることを反映した。[*]
  1. CRISPRメモ_2018/06/01 [第1項] DNA修復テンプレートをCas9に共有結合させておくと、HDRが亢進する: 1-2 U. Minneosotaグループ ;"Increasing Cas9-mediated homology-directed repair efficiency through covalent tethering of DNA repair template" Aird EJ, Lovendahl KN, St. Martin A, Harris RS, Gordon WR. Commun Biol. 2018 May 31. 
  2. CRISPRメモ_2018/08/02 [第1項] EvolvR: CRISPRゲノム編集ツール、超高速進化実験ツールへと進化. ;"CRISPR-guided DNA polymerases enable diversification of all nucleotides in a tunable window" Halperin SO, Tou CJ, Wong EB, Modavi C, Schaffer DV, Dueber JE. Nature. 2018 Aug 1. 
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