[出典] "High-strength and ultra-tough whole spider silk fibers spun from transgenic silkworms" Mi J [..] Meng Q. Matter 2023-09-20. https://doi.org/10.1016/j.matt.2023.08.013 [著者所属] Donghua U;グラフィカルアブストラクト 

 日本の研究チームが蜘蛛の糸を微生物に生産させることに成功し、スパイダーシルクと命名し、その後、カイコによる生産にも成功していたが、中国の東華大学の研究チームは今回、引張強度と強靭性の双方に優れたスパイダー・シルクをカイコから紡ぐことに成功した。 

 より軽量、より強力、より強靭な素材が求められ続けている。持続可能な素材 (sustainable materiakls) である蜘蛛の糸は、このような条件を満たしているが、紡糸のメカニズムの科学的理解、製造工程における技術的複雑さ、低コスト大量生産に向けての工学的ハードルのため、商業化には課題があった。
 
 研究チームは、CRISPR-Cas9とドナーDNAテンプレートをカイコの受精卵にマイクロインジェクションすることで、相同組み換え修復過程を介して、蜘蛛の糸のタンパク質をコードする遺伝子をカイコのゲノムに組み込むアプローチを採用した。その際に、ナイロンやケブラーなどのポリアミド繊維を参考にしつつ、トランスジェニックカイコの腺内にクモ糸タンパク質を局在化させることを目指し、AlphaFold2なども利用してカイコ・シルクの構造特性を理解した上で考案した強度 (strength)と靭性 (toughness) を実現するカイコ・シルクの「最小基本構造モデル」[*]を開発し、それを実現するドナーDNAテンプレートを設計した [Figure 2 参照]。
[*] Average Single-Molecule Intermolecular Non-Covalent Bond Energy Density (ASM-INCBED) 理論

 こうしたモデルとCriSPR-Cas9ゲノム編集技術によって、高い引張強度 (1,299 MPa)とケブラーの6倍以上の強靭性(319 MJ/m<3>)を示す、ポリアミドクモ糸全繊維を合成することに成功し、化石燃料に依存し環境への負荷が高い合成繊維に変わる持続可能な繊維としてのスパイーダ・シルクの可能性を高めた。
 
 さらに、ここで構築した理論は、繊維の引張強度と靭性は互いに矛盾するという従来の概念を覆し、また、任意のタンパク質をカイコの糸に組み込むことで、カイコによる新たな機能を備えたさらなるスーパー素材生産の可能性を示した。