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[出典] "Months after hospitalization for COVID-19, MRIs reveal multi organ damage - Largest study of its kind finds various abnormalities—but no lingering heart problems" Offord C, Science. 2023-09-22. 6:30 ET. https://doi.org/10.1126/science.adl0039 [著者] a science journalist.

 COVID-19の初期から、研究者や医師は、COVID-19が、脳、肺、心臓、および腎臓といったさまざまな器官を損傷する可能性があることを、痛いほど分かっていた。しかし、その損傷がいつまで残っているのか、それが、患者の回復にどう影響を与えるのか、は分かっていなかった。COVID-19の画像診断はこれまで、特定の器官を対象としており、多臓器への影響の全体像を捉えることができなかった。
[注] ロングCOVID (COVID後遺症) 参考記事:新型コロナウイルス感染症の後遺症 (罹患後症状); ロングCOVID
 
 2023年9月22日に、英国の研究チーム (The C-MORE [*1]/PHOSP-COVID [*2] Collaborative Group) は、2020年または2021年にCOVID-19で入院したワクチン未接種の患者259名 (以下、患者群) について、退院してから概ね5ヶ月後に全身のMRI検査、血液検査、生理学的検査、および、アンケートによる症状把握を行い、対照群 (PCR検査で、同時期にサーズウイルス2に感染していなかったと判定された50名) の検査結果と比較した結果を、The Lancet Respiratory Medicine誌から報告した [*3]。

 報告によると、患者群の60%に多臓器、特に脳と肺、の異常が見られたが、対照群ではそうした異常が見られたのは27%にとどまった。BMI (ボディ・マス・インデックス)や喫煙習慣などの交絡因子の影響を排除して患者群と対照群を比較解析した結果、脳においては、白質の病変や萎縮といった異常が発生するリスクが、COVID-19によって対照群の〜3倍まで高まることが見えてきた。また、脳に加えて、肺、心臓、腎臓および肝臓の異常も比較すると、そのうち少なくとも2種類の器官に異常が発生するリスクも、同様に〜3倍まで高まっていた。
 
 一方で、心臓の異常だけを比較すると、意外にも、患者群と対照群のリスクはほぼ同程度 (roughly the same)であった。論文共著者の一人であるオックスフォード大学の心臓専門医のBetty Ramanによると、「入院時には心臓に炎症やその他の症状が見られていたが、5〜6ヶ月の結果を見ると、心臓は他の臓器よりも相対的に回復が速いのかもしれない」と言う。今回の研究には参加していなかったクイーン・メアリー (ロンドン大学)の心臓専門医Steffen Petersenも、「今回の報告でMRI上での異常が患者群と対照群のいずれにおいても20-25%と同程度であったことは、患者群に見られた異常は、不整脈といった問題がCOVID-19感染以前からすでに存在していた可能性を示唆している」と言う。
 
 MRI は対象とした臓器の状態を知る手掛かりを提供するが、患者の症状を測定するには不完全である。今回も、例えば、肝臓のMRI画像異常と胃腸や腹部などに見られた症状との間に関連性が見出されず、腎臓と脳のMRI上の異常は、患者が報告する症状を予測できなかった。一方で、肺のMRI画像異常は、患者からの咳や胸部圧迫感と相関しており、重度の全身的身体的および精神的障害を報告した人は多臓器異常を抱えている可能性が高かった。
 
 ワシントン大学の生物統計学者Daniela Wittenは、「今回報告された臓器損傷がサーズウイルス2の感染によるものと断定することはできない」「対照群は平均して若くて健康であり、全体的に臓器損傷の影響を受けにくい可能性がある」と言う。また、「COVID-19発症前のMRIと発症後のMRI を比較しないと、どの異常がすでに存在していたのかを知ることは不可能であり、また、既往症にうより一部の患者は重篤な疾患にかかりやすくなった可能性がある」という。一定規模のヒトの集団を対象とするこうした解析においては、データの欠落や主観的データ (例えば、患者自身の申告) があり、交絡因子を完全に排除することは、なかなかに難しい。
 
 スタンフォード大学医学部の臨床医・研究者であるLinda Gengは、「こうした限界があるにもかかわらず、今回のような研究は重要なデータを提供し、COVID-19患者の急性期からの回復後のケアに対する学際的な全人的アプローチの必要性を浮き彫りにしている」と言い、「臨床医はCOVID-19による潜在的な多臓器への影響に警戒すべきである」と付け加えた。
 
 マサチューセッツ総合病院の生物統計学者Tanayott Thaweethaiは、「この研究は、症状やMRI検査の結果をもたらした原因を説明することよりも、入院患者の退院後の経過を記述することにある」、「ワクチン接種が普及し、優勢になるSARS-CoV-2変異株が変遷する中で、今回のMRI検査結果と、最近入院したCOVID-19患者のMRI検査の結果を比較してみたい」と言う。
 
 Ramanによれば、研究チームは現在、MRI検査を継続中であり、MRIの結果から、COVID-19にせよ他の疾患にせよ、将来入院・治療を必要とするかどうかを予測できるかどうか、解析を進めていく予定である。Ramanは「予測可能になれば、治療法の改善や回復に向けて、COVID-19入院患者のMRI検査は有力なツールになる」と言う。
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