2023-10-27 News & Views記事の書誌情報などを追記
[出典] News & Views "The synchronized catalytic dance of CRISPR-Cas9" Saha A, Pindi C, Palermo G. Nat Catal 2023-10-23. https://doi.org/10.1038/s41929-023-01043-x [著者所属] UC Riverside.

 フロリダ州立大学の研究チームは、その反応速度がSpyCas9よりも遅いAcidothermus cellulolyticus Cas9 (AceCas9) を選択することで、クライオ電顕法により、AceCas9-sgRNAの標的DNA切断前の状態A (Fig. 1引用右図 a 左)、切断時の2種類の中間状態B1とB2 (右図 b と c) を、2023-10-27 9.18.52捉えることに成功した。

 切断前の状態 (A)は、HNHが標的切断部位から離れた方向を向いた開いたコンフォメーションをとっていたが、中間状態 (B1とB2) および標的結合状態 D (右図 a 右) では、HNHとREC2ドメインが近接した閉じたコンフォメーションを形成していた。これらの構造から、主要なドメインの動き、特に、REC2ドメインがRuvCに向かって素早く動くことに伴うHNHドメインの180°回転が確認された (右図 a) 。こうしたコンフォメーションの変化を経て、HNHドメインとRuvCドメインが協働してDNA二本鎖を切断する準備が整っていた。著者らがほぼ2Åの分解能で明らかにしたクライオ電顕構造のうち2つ (B1とB2)をベースに金属イオンや水分子との相互作用を詳らかにしたが、基本的には、先行研究で明らかにされてきたモデルと一致している。

 著者らは変異誘発実験も行い、金属配位に関与する残基であるHis750を変異させることにより、AceCas9のコンフォメーション変化に対する金属配位の影響を探った。His750N変異体はMn2+存在下でin vitroのAceCas9活性を上昇させることが明らかになったが、in vivoでの活性には、さらにVal709Aが必要であった。対応する変異を持つSpyCas9変異体も、Mn2+で活性の増強レベルを示した。このように、著者らはAceCas9とSpyCas9の金属特異性を変化させ、Mg2+とMn2+の両方の環境で機能するCas9を開発した。

 本研究はまた、時間分解クライオ電顕法の可能性を示したが、Cas9のHNHドメインの大規模なコンフォメーション変化を引き起こす要因や残基間の相互作用には不明な点がある。

2023-10-09 原著論文に準拠した初稿
[出典]スクリーンショット 2023-10-06 12.27.10 "Coupled catalytic states and the role of metal coordination in Cas9" Das A, Rai J, Roth MO [..] Li H. Nat Catal. 2023-10-02.
https://doi.org/10.1038/s41929-023-01031-1 [著者所属] Florida State U [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]
 
 CRISPR-Cas9システムの活性を制御することは、臨床や研究用途に安全に採用するために不可欠である。Cas9のヌクレアーゼは、標的DNAの認識または結合を担うRECローブと、触媒活性を担いRuvCドメインとHNHドメインからなるNUCローブとの大規模なコンフォメーション変化を含む協働作業によって、活性を発揮する分子機序が明らかにされてきた [*1]。
 
 フロリダ州立大学の研究チームは、先行研究で解析・強化してきたAcidothermus cellulolyticus Cas9 (AceCas9) [*2]とsgRNAおよび標的DNAの三者複合体の結合後切断前、切断過程時の構造、切断後の構造を、時間分解クライオ電子顕微鏡の手法 [*3]に準拠して2.2-2.9Åの分解能で再構成し [*4]、標的DNAへの結合をきっかけとするHNHのコンフォメーション変化が、 [Fig. 3引用左下図とFig. 5引用右下図参照]RuVCの活性中心に作用して、AceCas9による標的DNAの切断が進行する過程を、HNHとRuvCの触媒部位における金属イオンの詳細な配位化学を介して、明らかにした。
スクリーンショット 2023-10-06 12.24.46   スクリーンショット 2023-10-06 12.25.00
[*]
1. Nature Catalysis 論文のイントロダクションに詳細な解説が含まれている:Cas9は、sgRNAによってスペーサー配列に相補的な領域へと誘導され、PID, REC1およびREC2といったドメインを介して標的DNAに結合し、sgRNAに相補的なDNA鎖 (標的鎖/target strand (TS))をHNHドメインで切断し、もう一方のDNA鎖 (非標的鎖/non-target strand (NTS)) を変異させた上でRuvCドメインで切断する。

2. AceCas9 酵素はII-C型サブタイプに属し、SpyCas9 より小型であるがII-A型Cas9システムと同一の触媒残基を含む。加えて、AceCas9によって使用されるRuvCドメインは、Cpf1 (Cas12a) のようなCRISPRエンドヌクレアーゼのもう一つの一般的に使用されるタイプの触媒ドメインである。野生型のAceCas9はSpyCas9よりも切断速度が遅いが、蛋白質の指向性進化工学によって、SpyCas9に匹敵する切断速度を持つ触媒強化型AceCas9が作出されている
3 "Time-resolved cryo-electron microscopy: recent progress" Frank J. J Struct Biol. 2027-06-16. 

4 構造情報: スクリーンショット 2023-10-06 12.19.47Structure of AceCas9 ternary complex  [Fig. 2引用右図参照] 2023-10-09 公開待ち
  • PDB 8D2N /  EMD-27143 (Pre-cleavage), 
  • PDB 8D2L / EMD-27142 (cleavage intermediate 1)
  • PDB 8D2K / EMD-27141 (cleavage intermediate 2)
  • PDB 8D2Q / EMD-27146 (post-cleavage 1)
  • PDB 8D2O / EMD-27144 (post-cleavage 2) 
  • PDB 8D2P / EMD-27145 (target-bound)