[注] MAG: metagenome-assembled genome / メタゲノムから再構成したゲノム
[出典] "Microbial-enrichment method enables high-throughput metagenomic characterization from host-rich samples" Wu-Woods NJ, Barlow JT [..] Ismagilov RF. Nat Methods 2023-10-12. https://doi.org/10.1038/s41592-023-02025-4 [著者所属] California Institute of Technology, U Chicago, Marine Biological Laboratory (Woods Hole), U Oldenburg, Alfred-Wegener-Institute for Marine and Polar Research, Helmholtz Institute for Functional Marine Biodiversity
 
 微生物と宿主であるヒトとの相互作用はこれまで、主として16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列決定による微生物分類学的プロファイリングを介して、ヒトの健康状態や疾病状態と、関連づけられてきた。しかしながら、関連をもたらしている分子機構については、つかみどころがないままであった。その一因は、哺乳類固形組織サンプルにおける微生物ゲノム解析が、組織内に内在する大量の宿主DNAによって擾乱されることにある。

 宿主DNAによる擾乱に対してはこれまで、多種多様な宿主DNAを除去する手法 (host-deption )法が開発され [出典の参考文献21,22,23,24,25,および26 とFig.1 参照]、公開および市販のプロトコールにより、哺乳類由来の液体サンプルからのロングリードシーケンスとバクテリアMAGの構築の両方が可能になった。いくつかのプロトコールは固形組織サンプルでの使用について検証されており、また、他のプロトコールも固形組織サンプルで成功する可能性はあるが、固形哺乳類組織からのMAG構築を可能にするのに十分効果的であることが実証された実験プロコトルは未だ無い。加えて、多くのhost-deption法が、膨大な処理時間と複雑なプロトコルのため、臨床で実施することは不可能であった。

 CaltechのRustem F. Ismagilovを責任著者とする米・独の研究チームは今回、唾液、便、腸スクレイピング、腸粘膜生検など、さまざまな種類のサンプルでhost-deptionを実証した微生物濃縮法 (microbial-enrichment method) をMEMとして発表した。
  • MEMは、微生物群集の変化を最小限に抑えながら、宿主DNAを1,000分の1にまで低減することで、ヒト腸管生検から得られた微生物メタゲノム(microbial metagenomes)のハイスループットな特性解析を可能にした。
  • 約90%の分類群について、MEM処理群と未処理の対照群との間に有意差が無かった。
  • MEM処理したヒト腸管生検のショットガンシークエンシングにより、高レベルおよび低レベルの微生物分類群、パスウェイ、遺伝子を消化管に沿って縦断的に特徴付けることができた。
  • ヒト腸管生検から直接メタゲノム集合ゲノムを再構築し、相対存在量が1%と低いバクテリアとアーケアを同定した。
  • MEMによる個人間および個人内でのマイクロバイオームの比較から、集団内で共通するコアの分類群と個人差のある分類群や、小腸と大腸で異なる亜集団構造を示す分類群が明らかになった [Fig. 6: Interindividual and intraindividual bacterial biodiversity present along GI tract 参照]。
 MEMは、宿主の組織と関連するマイクロバイオームの偏りがない深い特性解析を可能にすることで、マイクロバイオーム研究において、宿主と微生物の相互作用についてより深い洞察を得る道を開く。

  [MEMのプロトコル]
  • MEM開発にあたって、宿主細胞とバクテリア細胞のサイズの違いに着目し、機械的ストレス (Bead Beating) を用いた選択的溶解プロトコルを採用した [出典のFig. 1 a,b 参照]。
  • 微生物の溶解に通常使用されるビーズは0.1~0.5mmだが、1.4mmとより大きなビーズを選び、小さなバクテリア細胞はそのままに、大きな宿主細胞に高い機械的せん断応力を与える。
  • 次に核酸分解酵素ベンゾナーゼを加えて、死滅した溶菌微生物の核酸を含むアクセス可能な細胞外核酸を分解する。プロテイナーゼKによって宿主細胞を溶解し、DNA放出のために宿主ヒストンを分解する。
  • MEMの性能に影響を与える因子 (酵素的核酸除去、ビーズ・ビーティング、インキュベーション時間など) を評価し、最適化した。