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[注] RBP (RNA結合タンパク質)
[出典] "RNA molecular recording with an engineered RNA deaminase" Lin Y [..] Floor SN. Nat Methods 2023-10-19. https://doi.org/10.1038/s41592-023-02046-z [著者所属] UCSF, Gladstone Institute for Data Science and Biotechnology

[背景]

 細胞機能を担う遺伝子発現の制御において、RNA結合タンパク質 (RBP) が重要な役割を果たしている。RBPがどのようにRNA生物学を制御しているかを理解するためには、RBPがRNAと結合する部位を測定することが必要である。単一の遺伝子がしばしば複数のRNA産物を生成することから、転写産物のアイソフォームや1分子の分解能でRBP部位を測定することも重要である。

 RBP結合部位を同定するためのハイスループットな方法がいくつか存在する。RNA bind-n-seq [Methods Enzymol 2015] 、RNA-MaP (RNA on a massively parallel array) [Nat Biotechnol 2014]、および関連する手法は、精製タンパク質を用いてRBPが嗜好する (preference) 配列を同定することができる。細胞内では、RNA免疫沈降シーケンス (RIP-seq)、およびCLIP (UV cross-linking and immunoprecipitation) [Science 2003] 、eCLIP (enhanced CLIP) [Nat Methods 2016]、PAR-CLIP (Photoactivatable-Ribonucleoside-Enhanced-CLIP) [Cell 2010]など免疫沈降および架橋に基づく方法が開発され、トランスクリプトームワイドでのRBP結合部位同定が可能になった。これらのアプローチはショートリードRNAシーケンス用に開発されたものであり、RNaseによるRNA分子の消化を必要とする。しかし、RNase消化によって得られるデータは短いRNAの断片由来に限られる。ヒトのRNA分子は細胞内で多様であり、その翻訳可能性も大きく異なることから、これらのアプローチにより得られるRNA分子集団として平均化された短いリードから高分解能なRBP結合情報を獲得することは難しい。さらに、これらのアプローチでは、一度に測定できるのは単一のRBPの結合に止まり、スケーラビリティーを追求することも難しい。

 近年、RNAアイソフォームを区別し、RBP-RNA相互作用を1分子レベルで測定するために、TRIBE (targets of RNA-binding proteins identified by editing) [Cell 2016] 、DART (deamination adjacent to RNA modification targets) [Nat Mesods 2019]、STAMP (Surveying Targets by APOBEC-Mediated Profiling) [Nat Methods 2021] などのRNA分子記録法が開発された。これらのアプローチは、RNAデアミナーゼ酵素をRNA分子レコーダーとして使い、RBP結合部位をマークする。TRIBEはショウジョウバエのADAR (RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ) を、DART-seqとSTAMP-seqはC-to-UデアミナーゼAPOBEC1を、利用する。しかし、ADARもAPOBEC1もRNA分子記録酵素としては限界がある。dADARは二本鎖RNAデアミナーゼであり、一本鎖RNAに対する効率が低く、APOBEC1には細胞内在の標的によるバックグラウンドがノイズとなる可能性がある。そこで、これらの課題を解決する合成RNA分子レコーダーの開発が望まれていた。

 ところで、PumilioファミリーのRBPsは、転写後遺伝子発現の重要な制御因子である。ヒトはPUM1 PUM2 にコードされているPumilioパラログを発現している。PUM1とPUM2タンパク質は主にmRNAの3′UTRと相互作用し、翻訳、RNAの安定性、RNAの局在を制御する。PUM1とPUM2タンパク質は、Pumilioドメインにおいて90%同一と極めて類似しており、そのRNA結合親和性のランドスケープがin vitroではほぼ同一であるが、細胞内では異なる。多くのRBPsは、ある遺伝子から発現される一連の転写産物アイソフォームのサブセットと相互作用するが、CLIPのようなショートリードシーケンスアプローチを用いて、Pumilioタンパク質がどの転写産物のアイソフォームと結合するかを測定することは困難であった。さらに、PUM1タンパク質とPUM2タンパク質の異なる結合親和性が、1分子レベルで現れるかどうかは不明であった。

[成果]
 
 UCSFを主とする研究チームは今回、RNAベースの指向性進化法を利用して、高活性でバックグラウンドが低く、配列やRNA構造に対する嗜好性が低いRNAアデノシンデアミナーゼを開発し、これをRNAアデノシン塩基エディター ( rABEFigure 1 a  参照 ) と命名した。
  • ショートリードとロングリードのシーケンスデータから編集部位を同定するための厳密な計算パイプラインを介して、rABEが複数のRBPの既知の結合を再現することを確認した。この新たなアプローチをRNA-encoded molecular recording in adenosines (REMORA) と命名したが [Fig. 6  i 参照]、RNA分子レコーダーとしては、TRIBE, DART, あるいはSTAPといったRNA分子レコーダーのファミリーに属する。
  • ロングリード・シーケンシングと組み合わせることで、rABEによって、アイソフォームに特異的な結合イベントが同定された。
  • rABEとAPOBEC1を用いて、同一のRNA配列を認識するPumilioファミリーRBP間の共占有率を1分子レベルで測定した。細胞集団のレベルでは、発現量の多いPumilioタンパク質が結合を支配しているが、単一分子のデータは、細胞内では、同じ結合部位をめぐって競合するのは稀であり、PUM1結合とPUM2結合が正に相関していることを示した。
 指向性進化法で得たrABEは、偏りもバックグラウンドも低い点で、これまでのRNA分子レコーダーを凌駕している。さらに、今回構築した指向性進化のプラットフォームは、他のRNA編集酵素のエンジニアリングにも広く適応することができ、研究および治療目的の両方のためのRNA編集ツールキットの開発を加速する。
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