[注] senolytic: senescence (老化) と-lytic (破壊) からの造語; senolytics (老化細胞除去療法)
[出典] "Senolytic therapy alleviates physiological human brain aging and COVID-19
neuropathology" Aguado J, Amarilla AA, Taherian Fard A et al. Nat Aging 2023-11-13. https://doi.org/10.1038/s43587-023-00519-6 [著者所属] U Queenslan, Brigham and Women’s Hospital, Moscow State U, U Freiburg, U South Australia, Australian Infectious Disease Research Centrer, U Austral de Chile, U Oxford, Berking Biotechnology, U Medical Center Freiburg, Broad Institute of MIT and Harvard

 老化は神経変性疾患の主要なリスク因子であることが知られていたが、一方で、COVID-19が重篤な神経学的症状と関連していることが明らかになってきた。老化細胞 (senescent cells) は脳の老化に寄与するが、ウイルスがもたらす老化が神経病理学に及ぼす影響は不明である。豪・米・露・チリの研究チームが今回、老化ヒト脳オルガノイドに老化細胞が蓄積していること、薬剤で老化細胞を除去すると、老化に関連した炎症が抑制され、トランスクリプトームからみた老化時計 (aging clocks) を若返えらせる(rejuvenate)ことを報告した。
  • COVID-19重症患者の死後脳では、同年齢の非感染者対照群と比較して、老化細胞の蓄積が増加していることが観察された。
  • ヒト多能性幹細胞由来のヒト脳オルガノイド (Barin Organoid: BO) をサーズウイルス2に暴露すると、細胞老化が誘導された。スクリーンショット 2023-11-14 10.38.10中でも、デルタ株 (B.1.617.2) が脳オルガノイドにおいて細胞老化を最も強く誘導する変異体であることが同定され、デルタ株感染による老化細胞のトランスクリプトームは、in vitroで老化させた未感染の脳オルガノイドにおいて自然に出現する老化細胞とは異なる特徴的なトランスクリプトーム, 転写シグナチャー, を示した。サーズウイルス2感染脳オルガノイドに老化細胞除去剤を投与すると、サーズウイルス2の複製が阻害され、未感染神経細胞集団の老化が阻止された [Fig. 5引用右図参照]。
  • さらに、ヒトのACE2を発現させサーズウイルス2を感染させたトランスジェニックマウスを用い、老化細胞除去剤を投与し、老人細胞除去剤が臨床転帰と生存率を改善し、ウイルス量を減少させ、ドーパミン作動性ニューロンの生存率を改善し、アストログリオーシスを減少させ、感染マウスの脳における老化と特徴的な遺伝子発現を減弱させることが示された [Fig. 6参照]。
 これらの結果から、脳の老化とサーズウイルス2感染による神経病理を促進する上で、細胞老化が重要な役割を担っていること、また、老化細胞除去剤の治療効果があることが、示された。

[注] なお、本論文では、生理学的に老化したヒト多能性幹細胞由来の脳オルガノイドにおいて、トランスクリプトーム老化時計の若返りに、D + Q (ダサチニブとケルセチンのカクテル) 投与が際立った効果を示すことが明らかになった。さらに、ジカ熱 (ZIKV)や日本脳炎のような高神経向性ウイルスが、ヒト脳オルガノイドの細胞老化を引き起こす直接的な役割を果たすことも報告された。