[出典] "Lung SORT LNPs enable precise homology-directed repair mediated CRISPR/Cas genome correction in cystic fibrosis models" Wei T [..] Siegwart DJ. Nat Commun. 2023-11-11. https://doi.org/10.1038/s41467-023-42948-2 [著者所属] U Texas Southwestern Medical Center, Case Western Reserve U School of Medicine, ReCode Therapeutics
 
[背景]

 嚢胞性線維症 (Cystic Fibrosis: CF) をもたらす嚢胞性線維症膜貫通伝導調節因子 (CF transmembrane conductance regulator : CFTR) の変異は5つのクラスに分類されている [Types of CFTR Mutations, Cystic Fibrosis Foundation https://www.cff.org/research-clinical-trials/types-cftr-mutations]: CFTRへの翻訳を阻害するナンセンス変異とスプライス変異;CFTRの3次元構造への折りたたみを阻害する変異 (代表例 F508del);CFTRのゲーディングを阻害する変異;CFTRの伝導機能を阻害する変異;機能するCFTRの量を不十分に留める変異。多様な変異がもたらすCFの症状に対する薬剤が種々開発されてきた中で、ナンセンス変異を2コピー帯びているCF患者のほとんどが、現在のアプローチでは治療不可能なままであり、遺伝子治療が模索されている。

 CF治療における障害の一つが、特定の細胞、特に肺の細胞、に治療用因子を送達する戦略がないことである。生体内編集の技術はこれまでのところ主にウイルスベクターによって実現されてきたが、それには、潜在的な免疫原性、ヒトゲノムへの望ましくない統合事象に関する懸念、再投与が不可能であることなどから、その臨床応用には課題がある。こうしたウイルスベクターの問題点は、非ウイルス性脂質ナノ粒子 (LNP) を介した静脈内送達によって解決可能であるが、これまでは、標的可能臓器が主として肝臓に限られていた。

 Siegwartらは最近、組織特異的ゲノム編集のための非ウイルス性ナノ粒子"SORT (Selective ORgan Targeting) LNP"の開発を通じて、この送達の課題を克服した [*1, 2, 3]。SORT LNPsは、肺、肝臓、脾臓への核酸とタンパク質の静脈内送達に加え、筋肉と脳への局所細胞特異的送達を可能にした。重要なことは、肺SORT LNPが、レポーターマウスにおいて、内皮から上皮まで肺全体の細胞でゲノム編集を可能にすることを示したことである[*1]。このことによって、Siegwartらは、静脈内直接投与による生体内でのCF治療のためのゲノム編集への意欲を掻き立てられた。Siegwartらはまた、肺への送達の課題解決に加えて、複数のCRISPR/Cas遺伝子編集のコンポーネント (Cas9 mRNA、sgRNA、ssDNAテンプレート)を送達することで、in vitroおよびin vivoで腫瘍異種移植片においてHDR (相同組み換え修復) 過程を介した遺伝子修正が可能なことを実証した[*4、5]。この成功もあり今回、CRISPR/Cas9 HDRに基づく肺を標的とするSORT LNPを介したCF治療法の確立を目指した。

[手法と成果]

 研究チームはまず、SORT LNP Supplement 1一連の恒久的カチオン性Lung SORT脂質を評価し [Supplementary Fig. 1引用右図参照]、LNP内の脂質成分のモル比を最適化し、最終的に、生体外c (DOTAP10 LNPs) および生体内 (DOTAP40 LNPs) での正確なHDRゲノム編集のための改良型LNP製剤を同定した。
  • HEK293細胞において、Y66H変異を持つBFP/GFPスイッチで評価したHDR修正効率は50%に達し、修正を施した細胞は明るいGFP蛍光を発した。
  • 驚くべきことに、最適化した肺ターゲティングLNP (DOTAP40) は、全身静脈内投与後、肺基底細胞集団の約60%に導入された。この比率は、肺基底細胞における十分なCFTR遺伝子の補正が、気道上皮の長期的な機能回復に寄与する可能性を示唆し、CF治療にとって非常に有望な結果であった。
  • 最適化されたSORT LNPは、G542X CFマウスの肺においてG542X CFTR   遺伝子変異を修正することに成功し、SORT LNP 1これらの動物に由来する腸オルガノイドにおいてCFTR機能を回復させた  [Fig. 1引用右図右上段参照] また、SORT LNP、患者由来のヒト気管支上皮(HBE)細胞においてF508del変異を効率的に補正し、増殖後にCFTRタンパク質の発現と相対的なCFTR機能を回復させた  [Fig. 1引用右図右下段参照] 。
 CRISPR/Casを生体内でCFに関連する臓器や細胞タイプに送達するための効果的なSORT LNPの開発を継続することで、最終的にCFの新しい治療法が実現する可能性が示された。

[*] 引用論文/crisp_bio記事
  1. "Selective organ targeting (SORT) nanoparticles for tissue-specific mRNA delivery and CRISPR-Cas gene editing" Cheng Q [..] Siegwart DJ. Nat Nanotechnology. 2020-04-06;組織特異的なmRNAやCRISR-Casシステムのデリバリーを実現するナノ粒子SORTを開発: 肺, 脾臓, 肝臓を標的とする脂質ナノ粒子を設計し、従来の脂質ナノ粒子に融合することで実現 
  2. 2020-07-02 Cas9-sgRNA RNPを運ぶ脂質ナノ粒子には、pH非依存カチオン性脂質を適量添加;"Systemic nanoparticle delivery of CRISPR-Cas9 ribonucleoproteins for effective tissue specific genome editing" Wei T, Cheng Q, Min YL, Olson EN, Siegwart DJ. Nat Commun
  3. 2020-06-26;"On the mechanism of tissue-specific mRNA delivery by selective organ targeting nanoparticles" Dilliard SA, Cheng Q, Siegwart DJ. Proc Natl Acad Sci U S A. 2021-12-28;2021-02-10 カーゴのエンドソーム脱出を促進する合成リン脂質を開発;"Membrane-destabilizing ionizable phospholipids for organ-selective mRNA delivery and CRISPR–Cas gene editing" Liu S, Cheng Q [..] Siegwart DJ. Nat Mater. 2020-02-04. 
  4. "All-in-one dendrimer-based lipid nanoparticles enable precise HDR-mediated gene editing in vivo" Farbiak L [..] Siegwart DJ. Adv Mater 2021-06-17. 
  5. 2022-05-21 腫瘍組織の剛性を制御することで,CRISPR/Cas遺伝子編集によるがん療法の可能性を拡大"Enhancing CRISPR/Cas gene editing through modulating cellular mechanical properties for cancer therapy" Zhang D [..] Siegwart DJ. Nat. Nanotechnol. 2022-05-12.