[注] CRISPRは2020年ノーベル化学賞受賞 ;光ピンセットは2018年ノーベル物理学賞受賞;
[出典] "CRISPR-powered optothermal nanotweezers: Diverse bio-nanoparticle manipulation and single nucleotide identification"Chen J [..] Zhang H, Shao Y. Light Sci Appl 2023-11-16. https://doi.org/10.1038/s41377-023-01326-9 [著者所属] 深圳大学, 香港中文大学, Clemson U (USA)

[光ピンセット技術]

 2018年にノーベル物理学賞を受賞した光ピンセットは、集光したレーザー光により微小な誘電体微粒子をその焦点近傍に捕捉し、さらに移動させることを可能にした技術である (Wikipedia) 。光熱ナノピンセットは、光誘起熱力学的力 (optical-induced thermodynamic forces)を利用するにより、古典的光ピンセットよりも低いレーザーパワー密度 (10–100 μW·μm−2)でマイクロメートルスケールのナノ粒子をサブ波長精度で操作することが可能にし、ひいては、対象となる生物学的サンプルに対する光学的悪影響を低減することができる。

 光熱ナノピンセットにより、細菌や生細胞、一本鎖および二本鎖DNA分子 (ss-およびdsDNA) 、タンパク質など、マイクロメートルからナノメートルサイズの生体ナノ粒子を操作することができる。しかし、液体中での生体分子をその場で捕捉し操作することは困難であり、ポイントオブケア診断やバイオ・ナノテクノロジーへと展開するに至っていない。

 一方で、様々な生物学的プロセスにおいて熱効果が重要な役割を果たしていることから、バイオナノ粒子を対象とした場合に、光熱ナノピンセットの温度場の特徴が活きることを期待できる。

[CRISPR技術]

 2020年にノーベル化学賞を受賞したCRISPRシステムは、ゲノム編集ツールに限らず、核酸をはじめとする生体高分子の超感度な検出ツールのベースとなっている [*1, 2]。しかし、実サンプルへの適用にあたっては、複雑な構成のサンプル内での標的分子の存在量が相対的に低いことを克服する必要がある。

 例えば、CRISPR-Cas13アッセイは、SARS-CoV-2 RNAを検出する際、95%以上の感度と99%以上の特異性を示すが、それは1マイクロリットルあた0コピー以上の濃度においてのみである[*3]。実サンプルにおける感度向上のアプローチとしては、標的分子の濃縮や高度な検出技術を組み合わせることが試みられている。UCAD (ultrasensitive CRISPR-based antibody detection) アッセイでは、相分離を利用して蛍光タンパク質の局所濃度を高め、アトモル感度の抗体検出を実現している [*4]。CRISPR FISHerは、タンパク質の三量体化と相分離を利用して、生きた細胞内の非反復DNA配列を高輝度かつ強力なシグナル/バックグラウンド比で可視化する [*5]

 これらの方法は、CRISPR-Casシステムと新しいセンシング・モダリティを統合することで、DNA検出の感度と汎用性を高めることに成功した。しかし、CRISPRをベースとする検出法 (CRISPR Dx) は一般的に、多重化能力が低い、バックグラウンド・ノイズが大きい、異なるサンプル・タイプへの適用が限定的である、といった課題を依然として抱えている。

[光熱ピンセットとCRISPR-Cas12aの融合, CRONT] 
CRONT: CRISPR-powered optothermal nanotweezers

 中国を主とする研究チームは、光熱ピンセットとCRISPRベースの検出システムの相乗効果を狙ってCRONTを開発した。

 光熱ピンセットにおける、CRONT 1光熱励起に伴う光熱応答性フィルムの境界層における拡散泳動 (diffusioosmosis)と熱浸透流を利用することで、ssDNA、dsDNA、ウシ血清アルブミン (BSA)、Cas12aタンパク質、DNA結合金ナノスフェア (DNA@AuNS) コンジュゲートのバイオナノ粒子の操作に成功した [CRONTの作動原理 Fig. 1引用右図参照] 。

 続いて、捕捉されたDNA@AuNSの切断を見るCRISPRをベースとするDNAバイオセンシングスキームを組み込むことにより、核酸増幅を必要としないin-situ DNA分子(SARS-CoV-2またはMonkeypoxウイルス由来)同定を可能とする分子プローブへと展開し、検出限界としてそれぞれ25aM (ssDNA) と250aM (dsDNA) を達成した。

 注目すべきには、CRONT 6極めて微量 (10μL)のサンプルにおける一塩基多型 (SNPs) 検出が可能であった。すなわち、CRONTは、crRNA 同定の領域内では 1 塩基の違いしかないSARS-CoV-2野生型とOmicron BA. 2 の変異型とを判別可能であり、そのSNP 同定能力を示した [Fig. 6引用右図 f 参照]。

 CRONTは、光ピンセットに水溶液中でのDNA同定能力を付与し、その高い特異性とin-situバイオナノ粒子操作・同定の実現可能性により、ポイントオブケア診断、バイオ・フォトニクス、バイオ・ナノテクノロジーにおける普遍的なツールとなるであろう。

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