[出典] "Asymmetric CRISPR enabling cascade signal amplification for nucleic acid detection by competitive crRNA" Moon J, Liu C. Nat Commun. 2023-11-18. https://doi.org/10.1038/s41467-023-43389-7 [著者所属] U Connecticut Health Center
CRISPR技術をベースとする核酸検出ツールは、迅速かつ高感度で、分子診断への展開が期待される一方で、多くが前増幅の必要性や定量性の欠如などの課題を残している。著者らは今回、Cas12aに全長crRNAとスプリット型crRNAを組み合わせることで、Cas12aバイオセンサーの感度を向上させることに成功し、これを非対称CRISPRアッセイとして発表した 。
Cas12aとスプリット型crRNAの組み合わせは先行研究から、in vitroおよびヒト細胞の溶解液中で、Cas12aヌクレアーゼによる標的dsDNAの高度に特異的かつ効率的な切断を触媒できること、および、標的ssRNAの特異的切断とssDNAの非特異的トランス切断 (コラテラル切断活性) も維持されることが、報告されていた [*1]。
本研究の非対称CRISPRアッセイは、全長crRNAとスプリット型crRNAとの間に興味深いトランス切断の挙動を発見したことから、実現した。全長crRNAはスプリット型crRNAよりもCas12aとの結合親和性が強く、スプリット型crRNAの反応の制御に利用可能なのである。具体的には、これら2種類のCas12aに対する親和性が異なるcrRNAを混合した場合、Cas12aに対する親和性が強いcrRNAによって引き起こされるトランス切断反応が速く、支配的であり、対照的に、Cas12aに対する親和性が弱いスプリット型crRNAによって誘導される反応は遅いが、優勢な反応の感度を高める効果を帯びていた。このような競合crRNAの特異的な非対称トランス切断の挙動を利用して、全長crRNAにスプリット型crRNAとプローブとして機能するその標的ssDNA を加えるだけで、CRISPRの感度を向上させることができるシグナル増幅法を開発するに至った。CRISPRの反応性が異なる競合crRNAを用いたシグナル増幅法の報告は、筆者らが知る限りこれが初めてである。
a 従来の1つの全長crRNAに依存するCRISPR-Cas12aアッセイの模式図。
b 互いに競合する2つのcrRNAs (全長crRNAとスプリットcrRNA)を用いた非対称CRISPRアッセイの動作原理 - 全長crRNAはCas12aに対する親和性が高く、標的核酸と特異的に結合する。スプリットcrRNAは、標的核酸とは異なる自身のssDNA配列(split-T)に結合するように設計されている。2つのcrRNAのCRISPRとの結合親和性が異なるため、CRISPR-Cas12aはまず全長crRNAとその標的核酸によって活性化され、次にスプリットcrRNAとそのsplit-Tによって再活性化され、核酸検出のカスケードシグナル増幅が生じ、ひいては、標的検出シグナルが著しく向上する。
b 互いに競合する2つのcrRNAs (全長crRNAとスプリットcrRNA)を用いた非対称CRISPRアッセイの動作原理 - 全長crRNAはCas12aに対する親和性が高く、標的核酸と特異的に結合する。スプリットcrRNAは、標的核酸とは異なる自身のssDNA配列(split-T)に結合するように設計されている。2つのcrRNAのCRISPRとの結合親和性が異なるため、CRISPR-Cas12aはまず全長crRNAとその標的核酸によって活性化され、次にスプリットcrRNAとそのsplit-Tによって再活性化され、核酸検出のカスケードシグナル増幅が生じ、ひいては、標的検出シグナルが著しく向上する。
著者らは、非対称CRISPRのアプローチがCas12aバイオセンサーの感度の改善に加えて、RNAの直接検出に利用可能なことも見出した。クラスIIタイプVのCRISPR-Cas12aシステムは、dsDNAとssDNAのいずれもCas12aのトランス切断活性のアクチベーターとして認識することが知られている。
本研究では、DNA/RNAの断片配列を対象とする実験から、RNAがcrRNAの3'末端に配置され、crRNAの5'末端に配置されたDNAによって支持された場合、Cas12aがRNA標的を直接認識できることを明らかにした [Fig.4 引用右図参照]。この場合、特に、RNAとcrRNAの結合領域が重要である。すなわち、ssDNAが、これはCas12aタンパク質による標的認識と切断に重要な役割を果たすシード領域であるcrRNAの5'末端に位置している必要がある。最近の報告では、Cas12aはssRNAと結合するようにプログラムできることが示されており [*2]、今回の結果を裏付けている。さらに重要なことに、これらの結果は、Cas12aがRNAとDNAの両方を検出するようにプログラムできることを示している。

これらの知見に基づき、
非対称CRISPRアッセイを応用して、前増幅を必要としない定量的なマイクロRNA検出を行い、856 aMの検出感度を達成した。さらに、この方法を用いて、膀胱がん患者の血漿サンプル中のmiR-19aバイオマーカーを解析し、定量した [Fig. 6引用右図参照]。この非対称CRISPRアッセイは、様々な診断場面において、簡便かつ高感度な核酸検出法として広く応用できる可能性がある。

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