- 利己的なトランスポゾンが広がる過程で出現した多様な酵素活性と、トランスポゾンがコードするノンコーディングRNAの多機能性 -
2024-07-13 Science誌刊行論文の書誌情報、ならびに、そのグラフィカルアブストラクトへのリンクと内容を追記
[出典] "Antagonistic conflict between transposon-encoded introns and guide RNAs" Zedaveinyte R [..] Sternberg SH. bioRxiv 2023-11-20 [preprint] https://doi.org/10.1101/2023.11.20.567912 [著者所属] Columbia U, UCSF.
2024-07-13 Science誌刊行論文の書誌情報、ならびに、そのグラフィカルアブストラクトへのリンクと内容を追記
”Antagonistic conflict between transposon-encoded introns and guide RNAs" Žedaveinytė R [..] Sternberg SH. Science 2024-07-12. https://doi.org/10.1126/science.adm8189
[グラフィカルアブストラクト] TnpBヌクレアーゼはトランスポゾンの増殖において重要な役割を果たしている。単純なトランスポゾンにおける存在と同時に、tnpB 遺伝子と関連するガイドRNA(ωRNA)は、トランスポザーゼと自己スプライシング・イントロンをコードする複雑なIStronによって動員される。ωRNAの成熟はRNAスプライシングと互いに排他的であり、トランスポゾンの維持を促進することと、宿主のフィットネスコストを軽減するために必要な酵素活性との間で、複雑なバランスがとられていることが明らかにされた。
2023-11-25 bioRxiv投稿に準拠した初稿[出典] "Antagonistic conflict between transposon-encoded introns and guide RNAs" Zedaveinyte R [..] Sternberg SH. bioRxiv 2023-11-20 [preprint] https://doi.org/10.1101/2023.11.20.567912 [著者所属] Columbia U, UCSF.
OMEGA (Obligate Mobile Element–Guided Activity)の一種であるTnpBヌクレアーゼ [*1]はCRISPR-Cas12の祖先とされるが、バクテリアに限らず全ての生命界に広く存在していることから [*2]、トランスポゾンの増殖において重要な役割を果たしてきたと考えられる。 IS605トランスポゾンファミリーのTnpBホモログは、バクテリアにおいて、トランスポゾンにコードされたガイドRNA (ωRNA) を利用してゲノム部位を切断することにより、プログラム可能なホーミング・エンドヌクレアーゼとして機能し、DNA二本鎖切断 (DSB) が引き起こす相同組換えを通じてトランスポゾンの維持に貢献する。この経路が他の遺伝的コンテクストや他のトランスポザーゼとの関連において保存されているかどうかは不明である。
CAST (CRISPR-associated transposase) システムに関連する論文を精力的に発表してきたコロンビア大学とSamuel H. Sternbergが率いる研究チームは今回、IS607ファミリーのエレメントによる転移 (トランスポジション) とωRNAに誘導されるDNA切断の分子メカニズムを探る中で、IS607ファミリー・エレメントが、触媒的なグループI自己スプライシングイントロンをコードしていることを発見し、IStronと称した [Nature 論文グラフィカルアブストラクト参照]。
ボツリヌス菌 (Clostridium botulinum ) 由来のIStron候補について、TnpAトランスポザーゼを介したDNAトランスポジション、RNA自己スプライシング、およびRNA誘導DNA切断活性を再構成した。その結果、3つの異なる核酸切断・結合反応の分子決定基が重なり合い、競合していることが明らかになり、1つのポリヌクレオチド配列が、直交する多機能な化学反応を誘導する驚くべき能力が浮かび上がってきた。
特に、全長のIStron転写産物は、タンパク質に依存しない自己スプライシングが可能なイントロンとして、またDNA切断のためのゲノム標的部位を特定するノンコーディングガイドRNAとして、並行して、しかし相互に排他的な役割を果たしていることが明らかになった。
イントロンのスプライシングは、RNA自体の2次構造の特徴と、TnpBヌクレアーゼの両方によって制御されて、スプライシングの産物と機能するガイドRNAとの相対レベルを注意深く制御することを可能にしていた。この結果は、IStron転写産物が、宿主に不利なフィットネスコストを制限しながらトランスポゾンの維持を促進するという、互いに競合し排他的な活性のバランスをとる繊細な平衡を、進化させてきたことを示唆している。
[*]
- 2013-10-04 トランスポゾンにコードされたヌクレアーゼは、ガイドRNAを利己的な拡散に利用する;"Transposon-encoded nucleases use guide RNAs to promote their selfish spread" Meers C [..] Sternberg SH. Nature 2023-09-27. https://doi.org/10.1038/s41586-023-06597-1
- [20230929更新] 真核生物とウイルスにも, 原核生物のCRISPR-Cas様エンドヌクレアーゼが存在する;"Programmable RNA-guided DNA endonucleases are widespread in eukaryotes and their viruses" Jiang K, Lim J [..] Gootenberg JS, Abudayyeh OO. Sci Adv. 2023-09-27. https://doi.org/10.1126/sciadv.adk0171
[参考] bioRxiv 投稿のイントロダクションから
トランスポザーゼは、その高いコピー数とすべての生物界にわたる宿主の多様性から、自然界で最も豊富な遺伝子の一つである。トランスポザーゼは、化学的に異なるメカニズムでDNAを転移し、保存されているドメインの相違に応じて、DD(E/D)、チロシントランスポザーゼ、セリントランスポザーゼなど、いくつかの主要なタンパク質ファミリーのいずれかに分類される。
トランスポザーゼによって認識・転移されるDNAエレメントは、その左端と右端に特徴的な配列を持ち、トランスポゾン基質とそれを動員する酵素との間の緊密な分子結合を保証している。
興味深いことに、IS605とIS607に代表される2つの大きなバクテリア・トランスポゾンファミリーは、トランスポザーゼの仕組みは異なるが、全く同じアクセサリー因子であるTnpBをコードしている。真核生物のTnpBホモログはFanzorsとして知られ、さらに多様なトランスポゾン/トランスポザーゼと関連している。このことは、この生物界にユビキタスな遺伝子が関与する広範かつ反復的な共依存事象と、進化の過程でこれらの可動性エレメントが有利であったことを、示唆している。
TnpBの共依存と宿主同化はまた、CRISPRシステムのRNAにガイドされるヌクレアーゼCas9とCas12がこれらのトランスポゾンにコードされたアクセサリー因子と系統的に関連することから、バクテリアとアーケアにおけるタイプIIとタイプVのCRISPR-Cas適応免疫の進化につながったことも注目に値する。
[Nature 論文の挿入図一覧]
- Fig. 1. Genomic architecture and phylogenetic analysis of TnpB-encoding IStrons.
- Fig. 2. CboTnpAS catalyzes efficient IStron excision and integration, with distinctive dinucleotide requirements.
- Fig. 3. CboTnpB is a potent RNA-guided nuclease that prevents CboTnpAS-mediated transposon extinction.
- Fig. 4. CboIStron-encoded introns regenerate transposon-free transcripts while competing with TnpB-ωRNA activity.
- Fig. 5. Competition between intron splicing and TnpB-ωRNA activity establishes a balance between transposon stealth and maintenance.
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