crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Epigenetic profiles guide improved CRISPR/Cas9-mediated gene knockout in human T cells" Ito Y [..] Kagoya Y. Nucleic Acids Res 2023-11-21. https://doi.org/10.1093/nar/gkad1076 [著者所属] 慶應義塾大学医, 愛知県がんセンター, 名古屋市大医,  理研, 東大;グラフィカルアブストラクト 

 特定の遺伝子の遺伝子改変が、養子免疫療法における抗腫瘍T細胞の機能を強化する有力なアプローチとして台頭してきている。治療用T細胞構築過程においてin vitroで特定の遺伝子をノックアウトするなどの改変は、Cas9-gRNA複合体 (RNP) の送達と一過性発現を介して、可能になった。しか、最適なgRNAを選択することが依然として、効率的で安全な遺伝子ノックアウトに対する課題になっている。ガイドRNAの標的編集効率を予測する複数のin silico ツールが開発されているが、培養ヒトT細胞においてその性能が検証されていない。

 遺伝子ノックアウトの結果はCas9とgRNAの導入方法に左右される [*1]。Cas9とgRNAの安定的なウイルスベクターによる導入は細胞株に対する標準的な方法であるが、Cas9-リボ核タンパク質(RNP)複合体のエレクトロポレーションの方が、培養T細胞に対する効率的なデリバリー戦略として確立されている [*2]。gRNAを設計するための多くの予測ツールは、ウイルスベクターを介した導入アプローチで得られたデータに基づいて構築されているため、その知見がRNPエレクトロポレーションに適用できるかどうかは不明である。さらに、癌細胞株と初代T細胞では、最適な標的領域が異なる可能性がある。

 著者らは、Cas9-gRNA RNP複合体の一過性エレクトロポレーションを用いたCAR-T細胞の機能強化を検討してきた[*3]ところで、今回、個々のgRNAが誘導するインデルに関して蓄積してきたデータを利用して、遺伝子編集効率の高いgRNA/ターゲットを同定する戦略を検討した。クロマチンアクセシビリティがCRISPR/Cas9を介した遺伝子編集効果に及ぼす影響については既に複数の研究が行われているが [*4]、著者らは培養T細胞に特異的なエピジェネティックデータと予測アルゴリズムを組み合わせることで、gRNA設計が大幅に改善されることを実証した。
  • 現在利用可能な予測ツールだけでは、T細胞におけるインデルの割合を正確に予測するには不十分なことを確認した [Fig 1参照]。
  • 研究チームは、トランスポザーゼのクロマチンへのアクセシビリティーをマッピングするATAC-seqを利用して、培養T細胞のエピジェネティック・プロファイルのデータを集積・利用した。
  • このエピジェネティック情報を配列ベースの予測ツールと組み合わせることで、遺伝子編集効率が著しく向上した [Fig 2参照]。
  • さらに、エピジェネティックに閉じられた領域は、隣接する領域に2つのgRNAをデザインすることで標的可能なことも示した [Figure 3 参照]。
  • 最後に、ナイーブ (naïve)T細胞の遺伝子編集効率は、IL-7で前処理することにより向上することを実証した。[Figure 4 参照]
 本研究により、ヒトT細胞においてより効率的な遺伝子編集を可能にするアプローチが導かれた。

[引用論文とcrisp_bio記事]
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