[出典] 
NEWS "CRISPR and ‘e-ink’: new tools could reveal the secrets of cuttlefish camouflage - Technology moves scientists closer than ever to understanding how colour-blind cuttlefish pull off their kaleidoscopic patterns" Kozlov M. Nature 2023-11-17. https://doi.org/10.1038/d41586-023-03558-6

[News記事引用論]
  • 0. 論文 "Elucidating the control and development of skin patterning in cuttlefish" Reiter S [..] Laurent G. Nature 2018-10-17. https://doi.org/10.1038/s41586-018-0591-3
  • 1. 論文 "The dynamics of pattern matching in camouflaging cuttlefish" Woo T, Liang X [..]  Reiter S, Laurent G. Nature 2023-06-28/07-06. https://doi.org/10.1038/s41586-023-06259-2 [著者所属] MPI for Brain Research, 北京大学, 沖縄科学技術大学 (OIST); Supplementary Video 4 Skin-pattern changes caused by threatening stimuli on different backgrounds (CC BY 4.0) .
  • 2. 論文 "Wake-like skin patterning and neural activity during octopus sleep" Pophale A, Shimizu K, Mano T [..] Reiter S. Nature 2023-06/28/07-06. https://doi.org/10.1038/s41586-023-06203-4 [著者所属] 沖縄科学技術大学 (OIST), U Washington (Seattle)
[注] 本ブログ記事はイカの擬態を主としてとりあげたNature 誌のNEWS記事に準拠;各論文の日本語詳細解説が沖縄科学技術大学 (OIST) のWebサイトから公開されている:
  1. 日本語詳細解説 "コウイカの擬態は想像以上に複雑なメカニズムで成り立っていることが判明 - 高解像度で撮影した動画と人工知能を組み合わせた研究により、コウイカの擬態は見た目以上に複雑な過程を経て行われていると明らかになりました" ダニエ・エレンビ. OIST 研究関連ニュース. 2023-06-28. https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2023/6/29/cuttlefish-camouflage-more-meets-eye
  2. 日本語詳細解説 "タコも夢を見る?タコにも人間のレム睡眠に似た睡眠段階があるという事実が初めて明らかに - 人間などの哺乳類と同様に、タコにも2段階の睡眠段階(静的睡眠と動的睡眠)があり、動的睡眠はレム睡眠と似た性質を持っていることが明らかになりました" ダニエ・エレンビ. OIST 研究関連ニュース 2023-06-28. https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2023/6/29/octopus-sleep-surprisingly-similar-humans-and-contains-wake-stage

 イカは擬態の名人であり、数ミリ秒のうちに皮膚の模様を大きく変えて周囲に溶け込むことができる。しかも、自身は色を識別できない。11月11-15日にワシントンDCで開催された神経科学学会 (SfN) の2023年大会で、イカの皮膚細胞を綿密に調べ、脳の活動を追跡するツールを開発し、皮膚を観察することでイカが夢を見るかどうか研究してきた多くの研究者がその成果を発表した。

 神経科学者は長い間、脳の活動が皮膚のパターンに反映されるイカとタコの仲間に注目してきた [*0]。マックス・プランク脳研究所の神経科学者 Gilles Laurentらは、イカの個々の皮膚細胞の活動を高解像度のビデオに収め、イカの脳に浸潤することなく脳からのアウトプットにアクセスすることに成功した。

 イカの皮膚には様々な色の色素を含む色素胞 (chromatophores) と呼ばれる細胞が数百万個ある。皮膚の筋肉が収縮すると、細胞は形を変え、表出する色素の量を調節する。イカはこれらの収縮を組み合わせることで、さまざまな色、模様、質感を作り出している。

 Laurentらは 2023年6月にNature 誌オンライン刊行された論文 [*1]において、イカが以前に居た場所であっても、そこに移動すると、周囲の環境に合った色に落ち着くまでに何度か皮膚の色を変えることを発見し、イカは環境に溶け込むための決まった戦略をとるわけではなく、試行錯誤を繰り返して環境に溶け込んでいくことが示唆されるとした。

 イカの皮膚を研究することは、この生物の脳の中で何が起きているのかを知るヒントにしかならない。研究者にとっての真の "聖杯 "は、イカの遺伝子を操作することだろうとノルウェー科学技術大学の神経生物学者Horst Obenhausは言う。しかし、米国コロンビア大学ズッカーマン研究所の分子生物学者、Tessa Montague [*]は完全に成長しても体長がわずか7センチにしかならない小型のイカであるSepia bandensisの胚のCRISPRゲノム編集に成功している。MontagueはSfN会議で、現時点ではこの胚は長くは生きられないが、成体への成長がすることを想定して、蛍光タンパク質を生成する遺伝子を動物のゲノムに挿入し、ニューロンが発火するときに光らせることを計画している。この計画が成功し、イカが環境が変わるたびに皮膚を変化させる特定のニューロンや活性化パターンをデータとして蓄積できるようになれば、脳の活動と擬態の機序を深掘りすることが可能になる。このデータ化には、装置を取り付けるための硬い頭蓋骨を持たず、腐食性の塩水に囲まれている動物に適用な脳な新たなツールが必要である。
[*] 関連YouTube 動画:  

 Montagueらは、他のツールも開発している。電子書籍リーダー (e-readers) に使われている技術であるe-inkを使ったスクリーンに囲んだ水槽である。このスクリーンのパターンはプログラム可能であり、明るい光を発するスクリーンを使った場合に発生することがあるイカの混乱を回避しつつ、環境に対するイカの反応をシステマティックに研究することができる。

 イカがどのようにカモフラージュしているかを理解することは、氷山の一角に過ぎないとMontagueは言う。イカは、皮膚の色を変えることで、互いにコミュニケーションをとると見られている。また、イカの体全体にゆっくりと色が波打つ『波』のような、科学者がまったく説明できていない色の表現もある。

 研究者たちはまた、イカの皮膚を使って睡眠の進化を解明しようとしている。タコ [*2] と同じように、イカは「活動的な睡眠」をとり、その際、皮膚は急速にさまざまな色に点滅する。Obenhausは、イカが眠っている間に過去の社会的な出会いを再生していないかどうかを調べている。これが動物が夢を見る理由だと言う科学者もいる、とMontagueは言う。劇的な色の点滅はカモフラージュの目的を果たさないので、何か重要な進化的機能を果たしている可能性がある、とMontagueは付け加えた。