2024-05-05 2023年7月13日付のプレプリントサーバーmedRxiv 投稿が, 査読済み臨床報告として Lancet Infectious Diseases 誌から刊行されていた:
自己増幅型mRNAワクチンARCT-154の第3相試験からの報告 - その免疫原性, 安全性, 忍容性を、4回目のブースター接種の位置付けで, 従来型mRNAワクチンBNT162b2と比較
[出典] "Immunogenicity and safety of a booster dose of a self-amplifying RNA COVID-19 vaccine (ARCT-154) versus BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine: a double-blind, multicentre, randomised, controlled, phase 3, non-inferiority trial" Oda Y [..] Walson JL. Lancet Infect Dis 2023-12-20/2024 Apr. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(23)00650-3 [所属] Meiji Seika ファルマ, 北里大学北里研究所病院, Arcturus Therapeutics (San Diego), Walson Consulting (Seattle, WA).

 この二重盲検 , 多施設, 無作為化, 対照 ,第3相, 非劣性試験は、日本国内の外来臨床施設11ヶ所で実施され、mRNAワクチンのBNT162b2またはmRNA-1273を2回接種した後、登録の少なくとも3カ月前にBNT162b2を接種した18歳以上の健康な成人を対象に、4回目のブースターとしてARCT-154またはBNT162b2を摂取する群に、1:1の割合で無作為に割り付けられた。

 その上で、ARCT-154ワクチン接種28日後の免疫応答が、BNT162b2ワクチン接種28日後の免疫応答に対して非劣性であることを、偽ウイルス中和抗体幾何平均力 (GMT) 比とサーズウイルス2の野生型Wuhan-Hu-1株 (武漢株) に対する血清反応率の双方について、比較した。オミクロンBA.4/5亜種 (以下、オミクロン株)に対する免疫応答についても比較評価した。安全性は全解析セットで評価された。なお、本試験は論文投稿時点で進行中である [日本臨床試験登録: jRCT 2071220080]。

 2022年12月13日から2023年2月25日の間に、828人の参加者を登録し、4回目のブースターとして参加者にランダムに、420人にARCT-154を, 408人にBNT162b2を接種した。ARCT-154の武漢株に対する接種28日後の免疫応答は、BNT162b2に対して非劣性であり、オミクロン株に対する接種29日後の免疫応答は、BNT162b2に優った。

 試験中の死亡例は無かった。重篤な有害事象は1例、ARCT-154群における肝機能異常、が発生し、これは、試験用ワクチンに関連していると考えられた。心筋炎および心膜炎の検出で特に注目すべき有害事象は、胸の痛み (ARCT-154群で1例、BNT162b2群で3例) および息切れ (BNT162b2群で2例) であり、いずれもワクチン接種に関連すると考えられた。局所反応は、ARCT-154ワクチンを接種した420人中398人 (95%)、BNT162b2ワクチンを接種した408人中395人 (97%) に見られ、全身性の有害事象は、ARCT-154ワクチンを接種した276人 (66%)、BNT162b2ワクチンを接種した255人 (63%) に見られた。これらの有害事象は軽症であり、ワクチン接種後3~4日以内に発現し、消失した。

 28日目に免疫応答が強化されていたことは、この期間中に武漢株とオミクロン株に対する防御の可能性が高まり、防御の持続期間も長くなる可能性を示唆した。今後、オミクロン株以後のサーズウイルス2変異株に対する免疫原性を評価する予定である。

2024-04-12 Cell 誌のBENCH TO BEDSIDE記事へのリンクを追記
BENCH TO BEDSIDE "Self-amplifying RNA COVID-19 vaccine" Wayne CJ, Blakney AK. Cell 2024-04-11. https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.03.018

 2023年11月、Arcturus Therapeuticsが開発した自己増幅型RNA COVID-19ワクチンARCT-154が厚生労働省より承認された。臨床試験では、mRNAワクチンBNT162b2と比較して低用量で同等の安全性と有効性が示された。
[*] Arcturus Therapeutics はアクセリード社と合弁で日本法人を設立し、相馬市に製造工場を建設 [Jetro ニュース 2022-06-09]

2023-12-12 各種ニュースに準拠した初稿
[出典]

 明治ホールディングス傘下のMeiji Seika ファルマが28日、厚生労働省から新型コロナウイルスワクチン (ARCT-154: 自己増幅型RNA COVID-19ワクチン)の製造販売承認を得たと発表した。承認を得たARCT-154は、サンディエゴの Arcturus Therapeuticsとメルボルンに本部がある CSL によって開発された初の自己増殖型RNAワクチン (‘self-amplifying’ RNA: saRNA) であり、Meiji Seikaファルマは、医薬品受託製造会社ARCALISと連携して、製造・販売に向かう。

 今回の承認は、ベトナムで実施中の1万6,000人を対象とした有効性試験や、標準的なmRNA COVID-19ワクチンの比較対象と比較して高い免疫原性結果と良好な安全性プロファイルを達成した第3相COVID-19ブースター試験など、複数のARCT-154試験から得られた良好な臨床データに基づいている。 初期試験結果はmedRxiv [*]に掲載され、年内には査読付き学術誌に掲載される予定である。
[*] "Booster dose of self-amplifying SARS-CoV-2 RNA vaccine vs. mRNA vaccine: a phase 3 comparison of ARCT-154 with Comirnaty®" Oda Y [..] Walson JL. medRxiv 2023-07-13. https://doi.org/10.1101/2023.07.13.23292597 [preprint]; 臨床研究等提出・公開システム (Japan Registry of Clinical Trials) jRCT 2071220080 

 新型コロナウイルスに対するこれまでのmRNAワクチンは、主に、ヒトの免疫応答を刺激するタンパク質 (抗原) をコードする遺伝子配列を帯びたRNAをヒト細胞に送り込み、ヒト細胞の機能を利用してRNAから新型コロナウイルスの抗原を生成する。一方で、saRNAワクチンは、抗原をコードする配列に加えて、RNAレプリカーゼをコードする遺伝子配列も組み込まれたmRNAを利用し、ヒト細胞の機能を介さずに、自ら抗原を複製していく [Nature News の挿入図参照]。

 ARCT-154の場合、抗原は今やお馴染みのスパイクと呼ばれるタンパク質であり、RNAレプリカーゼとして、一連の遺伝子を除去することで感染性を消失させたベネズエラウマ脳炎ウイルス由来を利用している。すなわち、ウイルスそのものを作るのに必要な情報はコードされておらず、saRNAワクチンが新しいウイルスを作り出すことはなく、また、従来のmRNAに比べればヒト体内で長く維持されるが、分解されて、ヒト体内に恒久的に残ることはない。

 saRNAワクチンには、従来のmRNAワクチンによりも少ない用量で十分な効果を発揮することを期待できる。ARCT-154の場合は、これまでのmRNAワクチンのブースター接種に比べ、一人当たり10分の1から6分の1の用量で済む。この用量の節減は、製造コストの削減につながり、また、痛み、発熱、悪寒、その他の反応原性の低減を介してと副反応の軽減をもたらすことを期待できる。

 saRNAワクチンに欠点は無いのか。
 
 RNAレプリカーゼの遺伝子配列が加わることで、mRNAの長さが従来型の少なくとも3倍になり、製造過程が複雑になる。また、免疫システムへの作用機序も複雑になる。

 saRNAは、複製の中間体を形成することで、有益な免疫シグナル伝達経路を刺激する一方で、刺激が過剰になると、逆効果になる。例えば、ワクチンが免疫システムにRNA複製を阻害するよう促す結果になると、ワクチンの効果が無効になってしまう可能性もある。ベルギーのゲント大学の遺伝子治療研究者であり、saRNA医薬の開発を進めている企業のファウンダーであるNiek Sandersは、「saRNAの最適な投与量と最適な送達システムとの組み合わせを見つける必要がある」と言う。事実、バイテク企業はこのバランスをとる試みを数十年間続けてきた。

 新型コロナワクチン用のsaRNAワクチンは、2022年にインドで緊急承認されたが、その臨床データは芳しくなく、また、暫定的な承認であり、かつ、インドでの規制が比較的ゆるいことから、業界関係者は、ARCT-154の承認が、実質的な重要な分岐点 (watershed moment) とみている [Access to Advanced Health Institute (AAHI) の社長兼最高経営責任者Corey Casper]

 現在、十数種類のsaRNAワクチン候補が、帯状疱疹やインフルエンザの予防注射からがんの治療用ワクチンまで、さまざまな用途で臨床試験中であり、また、よりは幅広い応用が考えられている。例えば、saRNAを利用して体内で治療用タンパク質を生産することが考えられる [VLP TherapeuticsのJonathan Smith]