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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "CRISPR screening identifies the deubiquitylase ATXN3 as a PD-L1-positive regulator for tumor immune evasion" Wang S [..] Fang D. J Clin Invest 2023-12-01. https://doi.org/10.1172/JCI167728 [著者所属] Northwestern U Feinberg School of Medicine, 大連医科大学, 青島大学, National Center of Protein Sciences (北京), 上海交通大学医学院

 腫瘍細胞のPD-L1発現を制御することは、腫瘍の免疫逃避に関する理解を深め、既存の抗腫瘍免疫療法を改善するために極めて重要である。米国と中国の研究チームが今回、CRISPRスクリーンを介して、PD-L1転写の正の調節因子としてATXN3を同定した。また、TCGAデータベースを解析することで、ヒト癌の80%以上でATXN3とPD-1およびCD80受容体のリガンドであるCD274の間に正の相関があることが明らかになった。

 ATXN3が誘導するPD-L1転写は、炎症性サイトカインIFN-γや低酸素などの腫瘍微小環境因子によって、それらの下流の転写因子IRF1、STAT3、HIF-2αの保護を介して促進される。ATXN3はさらに、AP-1転写因子JunBの脱ユビキチン化酵素として機能し、ATNX3が複数の経路を介してPD-L1の発現を促進することが示された。

 腫瘍細胞におけるATXN3の標的欠失は、IFN-γおよび低酸素誘導性PD-L1発現をほぼ消失させ、その結果マウスにおける抗腫瘍免疫を増強したが、これらの効果はPD-L1の再構成によって部分的に逆転した。さらに、腫瘍ATXN3の抑制は、チェックポイント阻害抗腫瘍免疫療法の前臨床効果を改善した。重要なことに、ATXN3の発現はヒト肺腺癌とメラノーマで増加し、そのレベルはPD-L1だけでなく、その転写因子IRF1とHIF-2αとも正の相関があった。

 これらの結果から、ATXN3がPD-L1転写の正の調節因子であることが明らかとなり、チェックポイント阻害による抗腫瘍免疫療法とATXN3の阻害の併用療法の根拠が得られた。

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