[注] MELAS (Mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, stroke-like episodes / ミトコンドリア脳筋症,乳酸アシドーシス,脳卒中様エピソード)
[出典]
- 論文 "Efficient elimination of MELAS-associated m.3243G mutant mitochondrial DNA by an engineered mitoARCUS nuclease" Shoop WK [..] Gorsuch CL, Moraes CT. Nat Metab 2023-11-30. https://doi.org/10.1038/s42255-023-00932-6 [著者所属] Precision BioSciences, U Miami Miller School of Medicine.
- News & Views "Mitochondrial DNA editing with mitoARCUS" Hathazi D, Horvath R. Nat Metab 2023-11-30. https://doi.org/10.1038/s42255-023-00933-5 [著者所属] Department of Clinical Neurosciences (U Cambridge)
Precision BioSciences とマイアミ大学の医学部は今回、遺伝子編集ツールmitoARCUSを開発し、in vitroおよび生体内において、野生型mtDNAや核DNAに影響することなく、MELASの責任変異であるm.3243A>GミトコンドリアDNA (mtDNA) を低減させることに成功した。
[詳細]
ミトコンドリアDNA (mtDNA)は細胞内に膨大なコピーが存在し、ミトコンドリア病患者の細胞内に野生型と変異型が共存するヘテロプラスミー (heteroplasmy) の状態にある。また、ミトコンドリアにはしたがって、DNA二本鎖切断を修復する効率的なプロセスが存在しない。一方で、現時点ではその機構は不明であるが、ヌクレアーゼで切断され分解された場合に、残存するmtDNAが増幅してコピー数を回復する機能を帯びている。
こうしたmtDNAの特徴から、ヌクレアーゼを介して変異型mtDNAを優先的に切断して除去しつつ、残存した野生型ゲノムを再増殖させることで、mtDNAのヘテロプラスミーを野生型へとシフトさせようとするアプローチが考えられている。また、その目的のために利用可能なツールが様々あるが、その多くはサイズや特異性に課題があった。
研究チームは今回、mtDNA編集用のヌクレアーゼとしてChlamydomonas reinhardtii に由来する天然に存在するI-CreIから再設計したARCUSヌクレアーゼを採用した。ARCUSヌクレアーゼは、小型、複合体でない単一のタンパク質という構造、ロバストなタンパク質工学から生じる高い特異性を発揮、という特徴を備えている。
具体的には、最も一般的な病原性mtDNA変異の一つであるm.3243A>Gを標的とするミトコンドリア標的 (mitochondrial-targeted) ARCUSc (mitoARCUS) ヌクレアーゼを開発し、野生型mtDNAを切断することなく変異型mtDNAをロバストに除去し、ヘテロプラスミーのシフトとそれに伴うミトコンドリア・タンパク質の定常状態レベルとミトコンドリア呼吸の改善を実現した。核DNAに対する望ましく無い編集については、核外輸送シグナル (NES)とミトコンドリア移行性配列 (MTS) を利用することで、安全性をより高めた。
さらに、本研究で樹立したm.3243A>G 異種移植マウスモデルに、AAVを利用してmitoARCUSを全身投与し、mtARCUSが生体内でも有効なことを実証した。
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2022-07-24 [ハイライト] ミトコンドリアにおける塩基編集が旬 https://crisp-bio.blog.jp/archives/29739215.html
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