[出典]
論文 "Molecular determinants of ligand efficacy and potency in GPCR signaling" Heydenreich FM, Marti-Solano M, Sandhu M, Kobilka BK, Bouvier M, Babu MM. Science 2023-12-22. https://doi.org/10.1126/science.adh1859 [著者所属] Stanford U School of Medicine, MRCLaboratory of Molecular Biology, U Montréal, U Cambridge, St. Jude Children’s Research Hospital
展望 "Deciphering downstream receptor signaling - Advancing drug discovery requires increasingly integrative structural biology approaches" Filizola M, Javitch JA. Science 2021-12-21. https://doi.org/10.1126/science.adm8393 [著者所属] Icahn School of Medicine at Mount Sinai, Columbia U, New York State Psychiatric Institute.
[背景]
GPCRは細胞外のリガンドと結合し、細胞内のシグナル伝達反応を調節する。このリガンド-受容体-シグナル伝達系の2つの基本的な特性は、エフィカシー(efficacy: 達成可能な応答の最大値) とポテンシー (potency: 最大値の50%の応答を生じるに必要なリガンド濃度) である。これらは、数十年来、多くのリガンド-受容体-シグナル伝達系で測定されてきたが、これらの薬理学的特性を支配する分子決定因子や原理は謎のままである。
目的とするシグナル伝達反応を誘導する薬物の設計には、受容体の各残基がどのように効能や効力に寄与しているかを理解し、謎を解く必要がある。著者らは、「アドレナリン - β2アドレナリン作動性受容体 (β2AR) - Gα<s>」系において、β2ARの残基をアラニンに、あるいは本来のアミノ酸がアラニンの場合はグリシンに変異させることで、受容体の各412残基の側鎖に摂動を加え、エフィカシーとポテンシーへの影響を評価した。その際に、薬理学的データと構造データを統合するデータサイエンス・フレームワークを開発することで、リガンドによるGPCRの構造変化を介してエフィカシーとポテンシーが決定される原理を明らかにした [グラフィカルアブストラクト参照]。
[成果]
β2ARの残基のうち、受容体の薬理学的特性に寄与している残基はわずか20%であった。これらの薬理学的に関連する残基の3分の1は、リガンドやGタンパク質結合部位、あるいは進化的に保存されたモチーフにマップされ、残りの3分の2は受容体全体に分布していた。すべてのリガンド結合残基はシグナル伝達に重要であるが、エフィカシーとポテんシーへの寄与は異なっていた。これは、リガンドと受容体間の特異的な接触を調節することで薬理学的特性を微調整できることを示している。対照的に、Gタンパク質と接触する受容体残基のうち、薬理作用に寄与する残基は3分の1に過ぎない。これは、Gタンパク質接触残基が変異を許容することを示しており、Gタンパク質の選択性が進化しやすいことの説明となる。
活性および不活性な状態の受容体のコンフォメーションに関する構造データを、薬理学的測定と統合することで、構造変化を起こすすべての残基が薬理学的に重要であるわけではなく、いくつかの薬理学的に重要な残基は活性化時に構造変化を起こさないことが、確認された。こうした解析から、著者らはすべての受容体残基を4つのクラスに分類した:
- ドライバ残基とパッセンジャー残基は活性状態特異的な接触を媒介する。
- ドライバ残基の変異は薬理作用に影響を与えるが、パッセンジャー残基の変異は影響を与えない。
- モジュレーター残基とバイスタンダー残基は活性状態に特異的な接触を媒介しない。
- モジュレーター残基の変異は薬理学に影響を与えるが、バイスタンダー残基の変異は影響を与えない。
著者らは、ドライバー残基が駆動するリガンド結合ポケットからGタンパク質結合界面に向かうアロステリックネットワークを同定し、それによって薬理学的に関連する構造変化を同定した。モジュレーター残基はアロステリックネットワークと機能部位の近くに位置している。表面に露出したドライバー残基、モジュレーター残基、パッセンジャー残基は、重要なアロステリック部位であり、新しいアロステリック・リガンド開発の潜在的な標的である。ヒトの多型と種を超えた残基の保存の解析から、β2ARではパッセンジャー残基、モジュレーター残基、ドライバー残基はバイスタンダー残基に比べて選択圧が高まっていることが明らかになった。
[結論]
本研究は、GPCRがリガンドにコードされた情報をどのように解読・変換し、明確なシグナル伝達反応を媒介するのかを明らかにし、創薬に新たな手掛かりを残した。特に、リガンド結合部位から遠く離れたアミノ酸の変化が、アロステリックネットワークを介して、薬物応答や受容体シグナル伝達を大きく変化させうるという認識は、従来の、薬物設計戦略に再考を迫るものである。
また、今回構築したデータサイエンスフレームワークは、GPCRの分野に限らず、明確なシグナル伝達反応を引き起こすオルソステリック分子やアロステリック分子の設計を可能にするものと期待する。
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