[出典] "Fighting viruses with viruses? ‘Gene drive’ offers new strategy to beat infections" Cohen J. (a staff writer of Science) Science 2023-12-15. https://doi.org/10.1126/science.zm19m22
本ブログでは、CRISPRシステムをベースとした「遺伝子ドライブ」の報告を紹介してきたが2016年から今日に至るまで、のべ86件に達した。その間、遺伝子ドライブの対象生物は、ハエとカから酵母、そしてマウスにまで、主として、有性生殖をする生物の間で広がってきた。しかし、ウイルスについても、2020年にBuck Institute for Research on AgingのMarius WalterとEric Verdinが適用例を報告していた [*1]。
WalterとVerdinは、ヒトサイトメガロウイルス(ヒトヘルペスウイルス5: HHV-5)の異なる株間での遺伝子ドライブ因子の伝達を試み、細胞培養実験において遺伝子ドライブ因子を組み込んだウイルスが効率的に野生型集団を標的とし、それに取って代わることができることを示した。さらに、ウイルスの複製に必要な配列を標的とすることで、ウイルス遺伝子ドライブがウイルス感染を抑制する戦略として利用できることを示した。その後、Fred Hutch Cancer Center (FHCC) に異動したWalterは、Verdinに加えて、FHCCのKeith R Jeromeなどと共同で2023年12月8日に、HHV-5と同様な遺伝子ドライブが、ヒト単純ヘルペスウイルス1 (herpes simplex virus 1: HSV-1) でも成立することをマウスにて実証し、bioRxiv に投稿した [*2]。
CRISPRシステムをベースとする遺伝子ドライブ因子は、CRISPRシステムの2つの構成要素、すなわちCasヌクレアーゼと、この酵素を標的生物のゲノムの特定の場所に誘導するガイドRNAをコードする遺伝子配列で構成されている。有性生殖生物の実験は、その多くが、有害な生物集団を抑制する目的で、遺伝子が子孫に伝播する確率が50%(子孫が特定の遺伝子変異を受け継ぐ典型的なメンデルの確率)よりかなり高い遺伝子組み換えのメスやオスを作り出すことで、子孫を殺すか不妊にするような改変を広めるアプローチを取ってきた。
ウイルスはもとより有性生殖生物ではない。ウイルスは複製するときに互いに遺伝子を擾乱すような生殖はせず、感染した細胞に遺伝子を読み込ませ、新しいウイルスを複製するだけである。しかし、ヘルペスウイルスのように、複数のウイルスが一つの細胞に感染すると、核の中で遺伝子の配列をランダムに入れ替えるという、有性生殖に似たことがしばしば起こる。この "組換え "は、新しいゲノムを広めるウイルスの子孫をもたらす。遺伝子ドライブはこの自然なプロセスをハイジャックし、最終的にはウイルスの集団全体を無力化するかもしれない遺伝的変化を導入し、促進させる。HSV-1における遺伝子ドライブの伝播と効果については、南方医科大学のHongsheng Daiが率いる研究チームも2023年12月4日に、Cas12f1をベースとする遺伝子ドライブ因子が、Cas9をベースとするよりも、変換率と耐性が高いこと、および、HSV-1の遺伝子ドライブがヒトサイトメガロウイルス (hCMV) では達成できなかったスピードで、着実に広がることを、bioRxiv に投稿した [*3].
ヒトサイトメガロウイルス (hCMV), HSV-1、HSV-2、エプスタイン・バーウイルス、その他のヘルペスウイルスは、生涯にわたって宿主に潜伏感染し、定期的に再燃して症候性疾患を引き起こす可能性があるため、遺伝子ドライブで取り組むには特に魅力的な候補である。こうしたウイルスは薬剤によって再活性化を抑えることができるが、免疫系が低下している人の場合、薬剤が効かないことが多く、ヘルペスウイルスの再燃が多臓器に損傷を与え、死に至ることさえあり、特に、未治療のHIV感染者や臓器移植や骨髄移植を受けた人にとっては深刻な問題である。
WalterらのNature Communications 論文は刊行当時注目を集めることはなく、また、遺伝子ドライブ因子が野生型ウイルスへ広がっていくには、改変型ウイルスと野生型ウイルスが同一細胞内に共存することが必要であるが、生体内では、そうした現象はほとんど起こらないであろう、という批判もあった。Walterらは、bioRxiv 投稿にて、マウスにおいて、HSV-1遺伝子ドライブが伝播することを示したが、一方で、HSV-1遺伝子に組み込んだ蛍光マーカー遺伝子が示したように、HSV-1遺伝子の伝播速度はマウスの体の各部位で異なっていた (大脳皮質ではウイルスの25%に伝播した、脳幹では90%に伝播した)。それでもWalterは、この結果は、この技術がいつの日か人々の役に立つことを示唆していると言う。
ヘルペスウイルスの遺伝子ドライブは、ヒトでの実験にはまだ程遠い。Walterは今後、動物モデルでの実験を計画しており、遺伝子ドライブが慢性HSV-1感染を十分に抑制し、再活性化と発病を防ぐことができるかどうかを示したいと考えている。
カリフォルニア大学バークレー校の生化学者で、ヘルペスウイルスの研究を専門とするBritt Glaunsingerは、Walterらのアプローチが有望であることを認めた上で、遺伝子ドライブが標的とするウイルスを十分に弱めなければ、改変されたウイルス自体が病気を引き起こす可能性がある、特に免疫不全の人々において、と警告している。それでも、Glaunsingerは電子メールに書いた、「今後の展開を楽しみにしている」と。
[*] 引用論文
"Viral gene drive in herpesviruses" Walter M, Verdin E. Nat Commun 2020-09-28. https://doi.org/10.1038/s41467-020-18678-0 [著者所属] Buck Institute for Research on Aging;Fig. 1引用右図参照- "Viral gene drive spread during herpes simplex virus 1 infection in mice" Walter M [..] Jerome KR, Verdin E. bioRxiv 2023-12-08. https://doi.org/10.1101/2023.12.07.570711 [著者所属] Vaccine and Infectious Disease Division (Fred Hutch Cancer Center), Buck Institute for Research in Aging, U Washington (Seattle), Montana State U.
- "Viruses that ‘infect’ viruses: Cas12f1 and Cas9 gene drive in HSV1" Yao Q, Lin Z, Lai K [..] Dai H. bioRxiv 2023-12-04. https://doi.org/10.1101/2023.12.04.569968
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