[出典] "High-throughput PRIME-editing screens identify functional DNA variants in the human genome" Ren X, Yang H [..] Shen Y. Mol Cell. 2023-12-21. https://doi.org/10.1016/j.molcel.2023.11.021 [所属機関] UCSF, U North Carolina

 ヒトの疾患に関連するDNAバリアントのGraphical abstract検出は飛躍的に進歩したが、検出されたDNAバリアントの機能を、ハイスループットかつ1塩基分解能で解釈することは、依然として困難である。
 UCSFの各部署とノースカロライナ大学の研究チームは今回、「1回の実験で数千のコードおよび非コード領域に見られるバリアントの機能を高い再現性で同定可能とする」プール型PEスクリーニング法をPRIMEとして報告すると共に、その応用例も報告した [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。

[背景]

 ゲノム編集技術の発展により、DNA配列に摂動を与えて、関心のある領域を大規模に評価することが可能になった。しかし、これらの方法を精密なゲノム・アノテーションに利用するには、まだ根本的な障壁がある。例えば、CRISPRを介した遺伝学的スクリーニングは、疾患関連遺伝子とシス制御領域の両方の特徴を明らかにするために応用されてきたが、CRISPR KOとCRISPRインデル誘導, CRISPRi、およびCRISPRaをベースとするCRISPRスクリーニングでは、疾患の原因変異を1塩基分解能で特定するには至らなかった。

 CRISPRヌクレアーゼを介して相同組み換えによるノックインにより精密な摂動を与えることが可能ではあるが、効率が低くスループットが低い。また、一塩基変換(C→T、A→G、T→C、G→A)を実現した塩基エディター (BE) にも限界があり、特定の変換に限られ、効率も標的によって大きく変動する。

 最近、PEをベースとする飽和ゲノム編集によるVUS (variants of uncertain significance / 臨床的意義不明のバリアント) の意義を同定する成功例が報告された [*]。PEの一過性トランスフェクションに続き、編集された遺伝子座のターゲットシークエンシングを行うことで、編集イベントを同定することは可能であるが、その範囲はその遺伝子座のみに限定されるため、複数の遺伝子座を大規模に並行して評価するためのスケールアップには、工夫が必要である。また、スループットの向上に加え、導入遺伝子コピー数の制御、PEの安定発現、直接的な遺伝子座比較の改善も望まれる。

[PEスクリーンの最適化] Figure 1 引用右図参照

 研究チームは、ヒトゲノムの数千ものDNAバリアントのハイスループットなプール型スクリーニングを、Figure 1PEのバージョンの一つであるPE3をベースに、効率を高めかつレンチウイルスライブラリーを用いたプールスクリーニングを容易にするために、nCas9とM-MLV RT (nCas9/RT) 安定発現カセットを含むレンチウイルスをMCF7細胞に感染させた [右図 B 参照]。ピューロマイシン選択後、複数のクローンを単離し、最も高いnCas9発現を持つもの [右図 C参照: クローン#4] をその後の実験用に選択した。

[PRIMEの応用例]

 研究チームは、ヒトゲノムの数千ものDNAバリアントのハイスループットなプール型スクリーニングを、PEのバージョンの中でPE3をレンチウイルスに導入することでPRIMEを実現した。その上で、716bpのMYC エンハンサーの1塩基分解能解析 [Figure 2 参照] 、および、乳癌に関連するゲノムワイド関連研究 (GWAS)で同定された1,304個の非コードバリアントとClinVarから得た3,699個の臨床的バリアントが乳癌由来MCF7細胞の細胞適合性に及ぼす影響の評価 [Figure 3 参照]のアプリケーションでPRIMEの有用性を検証した。その結果、103個の非コードバリアントと156個のVUSsが、細胞のフィットネスに影響を与えるという意味で、機能を帯びていることを同定するに至った。

[結論]

 PRIMEは1塩基の分解能とゲノムスケールで遺伝的バリアントを特徴付けることができ、疾患リスク予測、診断、治療標的同定のための正確なゲノムアノテーションを進めることができることが実証された。

[*]
crisp_bio  [20220313更新] プライム・エディティング (PE)をベースとする飽和ゲノム編集によるVUSの機能同定; "Saturation variant interpretation using CRISPR prime editing" Erwood S, Bily TMI, Lequyer J [..] Ivakine EA, Cohn RD. Nat Biotechnol. 2022-02-21.