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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] NEWS "Every COVID Infection Increases Your Risk of Long COVID, Study Warns" Koumoundouros T (journalist & editorial assistant). ScienceAlert 2023-12-27. https://www.sciencealert.com/every-covid-infection-increases-your-risk-of-long-covid-study-warns

 最新の科学ニュースを配信しているScienceAlertが、米国の退役軍人の集団のデータ [1]、カナダのデータ [2] 、および、米国のNational COVID Cohort Collaborative (N3C) のデータ [3] をベースとする3種類の報告を引用したニュースを配信した。

 ロングCOVIDは今やあらゆる臓器に壊滅的な影響を及ぼす多臓器疾患と定義され、生涯にわたって影響が続く可能性がある。サーズウイルス2に感染した人のうちロングCOVIDに移行する割合は、研究や地域によってまちまちであるが、世界的には現在6,500万人がロングCOVIDに苦しんでいる。幸いなことに、現在のところ児童のサーズウイルス2感染率はかなり低いが、彼らもロングCOVIDから完全に免れたわけではない。

1. 米国退役軍人からのデータ

 疫学者Benjamin Bowe らは、SAR-CoV-2に感染した138,818人の米国退役軍人を2年間にわたって追跡調査し、再感染した患者は複数の臓器においてロングCOVIDのリスクが増加すること (再感染は累積的に作用すること)を発見した。:"Postacute sequelae of COVID-19 at 2 years". Bowe B, Xie Y, Al-Aly Z. Nat Med 2023-08-21.;crisp_bio 2023-08-23 ロングCOVIDは早期発症から2年後も続き、10年後、20年後を見通すのはまだ難しい

2. カナダからのデータ

 報告[1]が、米国退役軍人という独特の集団からのデータに基づいているが、カナダの10州にわたる18歳以上の人々を対象としたより広範かつ多様な集団を対象とした研究でも再感染の累積作用が発見されている。
[出典] “Experiences of Canadians with long-term symptoms following COVID-19” Kuang S, Earl S, Clarke J, Zaharia D, Demers A, Aziz S. Insights on Canadian Society. 2023-12-08. 

 2023年のカナダCOVID-19抗体・健康調査-追跡調査 (Canadian COVID-19 Antibody and Health Survey: 
CCAHS-FQ) のデータを用いて、カナダの成人におけるCOVID-19の感染および再感染に関する最新の推定値を示し、感染によって経験した症状を分析し、CCAHS-FQの1年前である2022年に実施されたCCAHS-2の結果と比較した。また、COVID-19感染後またはロングCOVIDに一致する長期症状を報告したカナダ人について、症状の重症度、医療制度の利用経験、日常生活への影響などを調査し、ワクチン接種状況の最新情報とともに、報告している。
  • 2023年6月現在、カナダの成人の約3分の2が、少なくとも1回のCOVID-19感染の確認または疑いを報告しており、パンデミックが始まって以来、多くの人が2回以上の感染を報告している。
  • 特定の人種グループで複数回感染が報告されることが多く、特に、黒人カナダ人は他の人種グループと比較して複数回感染を報告することが最も多かった。
  • 約350万人のカナダ人成人がCOVID-19感染後にロングCOVID-19に相当する長期にわたる症状を経験したと報告し、210万人が2023年6月現在もそのような症状を経験していると報告した。現在も症状を経験している人のほぼ半数が、時間の経過とともに症状の改善は見られないと回答している [感染回数1回, 2回, 3回に対してロングCOVIDを呈する割合が、~15%, ~ 25%, ~ 35と増加]
  • 長期的な症状を抱えながら就学または就労しているカナダ人のうち、5人に1人以上が就学または就労できず、平均24日間欠席した。
  • 症状について医療機関を受診した長期症状者の約40%が、受診が困難とした。

3. National COVID Cohort Collaborative (N3C) からのデータ

[出典] “SARS-CoV-2 Reinfection is Preceded by Unique Biomarkers and Related to Initial Infection Timing and Severity: an N3C RECOVER EHR-Based Cohort Study” Hadley E, You YJ, Zhou A et al., and the N3C and RECOVER consortia. medRxiv 2023-01-05 (preprint) 

 COVID-19パンデミックは2年以上持続しているが、SARS-CoV-2による再感染の分析は不十分であった。著者らは、NIH Researching COVID to Enhance Recovery(RECOVER)イニシアチブの一環である、National COVID Cohort Collaborative (N3C) の電子カルテ (EHR) ベースの研究コホート (~150万人)を用いて、再感染の特徴、再感染後のロングCOVID発症、および再感染の重症度と初感染との比較解析を行った。再感染の発生率は5.9%であったが、ほとんどの再感染がオミクロン期 (Omicron epoch) に発生し、複数回の再感染が認められた。また、再感染に至るまでのアルブミン値の低下と、初感染と再感染との間の重症度の間に統計的に有意な関連を見出した。
著者らは、これが一般的な再感染によるものなのか、新しいSARS-Cov-2株の変異によるものなのかはまだ不明であり、さらに、ロングCOVIDのリスク上昇を示す研究はまだ "数と一般化の可能性が限られている "と注意を促してはいる。

 ところで、サーズウイルス2がヒト免疫システムを変化させることが報告されている。長期的な免疫形成に重要なメモリーT細胞を破壊するのである。サーズウイルス2に感染した結果が、軽度であれ重度であれ、COVIDはT細胞を枯渇させ、肺炎やRSVのような他のウイルス感染よりも深刻で頻繁な流行の一因となる可能性がある。

 この年末年始のホリデーシーズンの中で、下水検査によると、米国を含む多くの国でCOVID-19感染者が再び急増し、ドイツのような一部の地域では、過去最高の数値を示している。スクリーンショット 2023-12-30 14.23.16
[注] 日本でも、札幌市の下水サーベイランスでは、12/18 ~ 12/24に前週比2.2倍と急増している [札幌市のホームページから引用した右図参照]。

 ヒトは結局のところお人好しにも、サーズウイルス2に、流行中の菌株を凌駕するような遺伝子変異を偶然発見するまで、ランダムな遺伝子変異をテストし続けるための実験室を提供し続けてきたようなものだ。オミクロンBA.2株から変異しPirolaとも呼ばれる新JN.1株は、今まさにそれを成し遂げている。
[注] WHOは12月18日にJN.1株をVOI (Variants of Interest / 注目すべき変異株) に指定し、 日本国内では、12月3日までの1週間で111.6%から31%に急増した [NHK NEWS WEB 2023-12-28 18:39]
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