[出典] "An adenine base editor variant expands context compatibility" Xiao YL, Wu Y, Tang W. Nat Biotechnol. 2024-01-02. https://doi.org/10.1038/s41587-023-01994-3 [著者所属] U Chicago.
ABEは、A:Tの塩基対をデオキシイノシン中間体を介してG:C塩基対へと精密に変換する人工遺伝子編集因子である。既存のABEが最も効果的に機能するのは、標的のAがTAのコンテクストにある場合である。著者らは今回、ABEが有効なコンテクストを広げることを目的として、大腸菌のtRNA特異的アデノシンデアミナーゼ (TadA) を、指向性進化法で進化させ、RA (R = A/G) のコンテクストのAを効率的に変換するTadA8rに至った
指向性進化法は、TadA7.10 [*1]とTadA8.20 [*2] をもたらした手法に倣いつつ、GATCを基質に設定し、RA (R = A/G) のコンテクストに有効な一連のTadA-RAを誘導し、さらに、シャフリングも加えた上で得られたTadA-RA5.2を選択しTadA8rと称した [Fig. 2 Directed evolution of TadA for RA compatibility 参照]。
このTadA8rは、RA に対する強力なデオキシアデノシン脱アミノ化能を有し、これまでに報告されている中で最も活性の高いTadA変異体、TadA8.20 [*2]およびTadA8e [*3]、よりもGAのコンテクストにおけるAを変換する速度が速い (それぞれ、9.5倍と11.1倍)。
TadA8rとStreptococcus pyogenes Cas9ニッカーゼ (nCas9)で構成したABE8rは、PAMから遠位端において編集ウィンドウを拡大し、また、オフターゲット変換を制御しつつヒトゲノムの疾患関連G:C-to-A:Tのトランジッションを修正する性能において、YA (Y = T/C) のコンテクストのAに対して最も有効なABE7.10 [*1]、ABE8.20 [*2]、およびABE8e [*3]を上回った。
ClinVarに登録されている12,000件の病原性G:C-to-A:T変異を対象に塩基編集性能を評価したところ、ABE8rは、病原性G:C-to-A:T突然変異の42%を修正することに成功した。例えば、その破壊が低比重リポタンパクコレステロールを減少させるPCSK9 の部位や、スターガルト病で最も頻度の高いABCA4-p.Gly1961Glu の変異など、これまでのABE変異体でではアクセスしにくい臨床的に重要な部位の編集が可能になった。
さらに、GATを基質として指向性進化した結果得られたTadA-RA3.0は、GAT/CのコンテクストでのAのみに対して塩基編集活性を示すことを見出した。これは、指向性進化法を利用することで、特定のコンテクストにおける標的塩基を特異的に変換する塩基エディーを導出可能なことを示唆している。
[注] 責任著者のWeixin Tangは、X (元 Twitter)
Weixin Tang (@WeixinT) / X
で「TadAは、研究を始めた当初は、本論文の方向性とは別の目的で単なるコントロールとして選択したのだが、想定外の結果を得ることになった。指向性進化法は、まさに、驚きに満ちている」とポストしている。[*] 引用文献紹介crisp_bio記事
- ABE7.10:crisp_bio 2017-10-26 D. R. LiuのDNA1塩基編集法 "ABE" とF. ZhangのRNA1塩基編集法 "REPAIR"
- ABE 8.20:crisp_bio 2020-03-18 [20200414更新] Beam Therapeutics、ABE7.10をABE8へと進化.
- ABE8e:crisp_bio 2020-03-18 Liu DRとDoudna JAら、ABE7.10をABE8eへと進化
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