[出典] "Programmable protein expression using a genetically encoded m6A sensor" Marayati BF, Thompson MG, Holley CL, Horner SM, Meyer KD. Nat Biotechnol 2023-01-02. https://doi.org/10.1038/s41587-023-01978-3 [著者所属] Duke School of Medicine.

 6メチルアデノシン(m6A) は細胞内で何千にも及ぶ細胞内でのmRNA修飾として最多であり、スプライシング、安定性、翻訳を含むRNAライフサイクルのいくつかのステップに影響し、遺伝子発現と細胞生理を左右する。したがって、m6Aの調節異常がいくつかのヒト疾患を引き起こす。m6Aは、m6A結合タンパク質をリクルートすることによって、多様なRNA制御機能を発揮することから、そうした疾患の治療標的として、m6Aメチル化酵素機構が注目を集めている。しかし、m6Aを解析するにはRNAを分離する必要があり、既存の手法では、生きた細胞におけるmRNAのメチル化をリアルタイムで読み取ることはできない。

 細胞におけるm6A制御機構の理解は、m6Aの検出を可能にする新しいツールの開発によってもたらされてきた。細胞内のm6Aレベルのグローバルな変化を検出には、主に、m6A抗体、薄層クロマトグラフィー (thin-layer chromatograph: TLC)、質量分析の3つのアプローチが用いられてきた。しかし、これらの方法には、コストが高いこと、大量のRNAが必要であること、複数のサンプル処理工程が必要であることなど、いくつかの制約が伴っている。さらに、抗体ベースの方法には非特異性の課題があり、質量分析法は特殊な装置を必要とし、TLCは放射能に依存するという課題も伴っている。最近になって、抗体ベースのグローバルm6Aマッピングに代わる方法が開発されたが、これらの方法はしばしば相当量のインプットRNAを必要とする。いずれにしても、現在のアプローチは全て細胞からRNAを分離する必要があり、生きた細胞でのm6Aメチル化をリアルタイムでモニターすることはできない。これらの制約が、m6Aの細胞内で動的制御の理解に対する障害となっていた。さらに、ハイスループットスクリーニング (HTS) への展開を可能とする細胞内のm6Aメチル化を特異的に読み出す方法が存在しない。このため、METTL3などのメチル基転移酵素の阻害剤を同定することを目的とした創薬研究や、細胞内のm6Aの制御因子の同定を目的とする他のハイスループット研究の展開も妨げられてきた。

 著者らは、mRNA上にm6Aが沈着すると蛍光を発する遺伝子コード化m6Aセンサー (genetically encoded m6A sensor: GEMS) を開発することで、このような制約を克服した [Fig. 1: Overview of the GEMs system 参照]。このセンサーは、様々なタイプの細胞でmRNAのメチル化を検出し、m6Aメチル化酵素METTL3の薬理学的阻害によって生じるm6Aの変化を検出し、創薬のツールとして利用可能である。

 GEMSシステムは、m6A結合蛍光レポーターとしての有用性に加えて、m6A依存的に目的のタンパク質ペイロードを送達するようにプログラムすることができる。研究チームは、GEMSを使って肝臓癌細胞でSOCS2とp53を発現させ、細胞増殖の遅延と遊走能の低下をもたらすことによって、この機能を実証した。従って、GEMSシステムは、SOCS2の場合のようにmRNAのハイパーメチル化によって産生が低下したタンパク質の発現をレスキューするためにも、p53の場合のようにm6Aが上昇した細胞における腫瘍抑制タンパク質の発現のための一般的な戦略としても使用できる。

 理論的には、どのようなタンパク質でもGEMSシステムを用いて発現させることが可能であり、細胞の望ましい結果を達成する手段として、あるいは高レベルあるいは低レベルのm6Aの影響を打ち消す手段として、m6A共役エフェクタータンパク質の発現に多くの可能性が開けている。例えば、GEMSを用いて、METTL3そのものを標的とするCRISPR-Cas9ツールを送達することで、m6Aレベルの変化に応じてMETTL3の発現を活性化または抑制し、m6Aの恒常性を維持することができる。m6Aの調節異常とヒトの疾患には多くの関連性があることから、GEMSシステムは新規の治療戦略として有用である可能性がある。