[出典] 
 脳における遺伝子発現の測定には、脳組織の侵襲的解析か、感度が低い故に限界はあるが非侵襲的な方法を選択することになる。著者らは今回、Released Markers of Activity (RMA)と呼ばれる合成レポーターを用いて、脳における内因性遺伝子や導入遺伝子の発現を非侵襲的、多重化、部位特異的にモニターする方法を報告した。

 RMAは、容易に検出可能なレポーターと、脳内皮を通過するトランスサイトーシス (transcytosis)を可能にする受容体結合ドメインで構成される。すなわち、「細胞分泌シグナル配列 (secretion signal)、検出しやすいマーカー (detectable protein marker: 例えば、ルシフェラーゼ、蛍光タンパク質、抗体のエピトープ)、および血液脳関門 (BBB) を通過する逆トランスサイトーシス(reverse-transcytosis) を可能にする抗体のFc領域」で構成される  [Fig. 1: Non-invasive monitoring of gene expression in the brain with RMAs の b 参照]。このRMAは脳内で発現するが、血液中へと排出されることから、脳外で容易に測定することができる [Fig.1 の a と c参照]

 脳容積の約1%に相当するマウスの脳のある部位でRMAを発現させると、ベースラインと比較してシグナルが最大10万倍増加し、数十から数百のニューロンにおけるRMAの発現は、信頼性の高い検出には十分であった。実証実験において、Fos応答性RMAを発現する細胞を化学遺伝学的に活性化すると、非活性化対照に比べて血清RMAレベルが6倍以上増加することも確認した。

 RMAは、動物の脳を障害することなく遺伝子発現の反復可能な多重モニタリングのための非侵襲的方法を提供する。

[注] 
  • Szablowskiらは、脳を対象とする抗体療法の課題からRMAを発想するに至った。すなわち、「脳に注入される抗体は脳から迅速に排出されてしまうが、その原因となる抗体の部分を取り出し、それを簡単に検出できるタンパク質に結合させることができれば、特定の遺伝子が脳のどこで、いつ、どれだけ発現しているかを見ることができるだろう」と想定した。一方で、他の研究チームが、Szablowskiらが今回利用した新生児型Fc受容体 (Neonatal fragment crystallizable receptor: FcRn)を介して、抗体がBBBを通過することを突き止めていた。
  • Szablowskiは、「この方法は非常に高感度で、特定の細胞における遺伝子発現の変動を追跡可能にする」「脳の約1%にこのタンパク質を産生させると、その血中濃度はベースラインと比較して10万倍まで上昇することから、血液検査だけで、この一つのタンパク質の発現を特異的に追跡することが可能になる」と言う。