[注] Human Fetal Brain Organoids (FeBOs) 
[出典] 
論文 "Human fetal brain self-organizes into long-term expanding organoids" Hendriks D, Pagliaro A, Andreatta F [..] Clevers H, Artegiani B. Cell 2024-01-04/01/08. https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.12.012 [著者所属] Princess Máxima Center for Pediatric Oncology, Hubrecht Institute, Oncode Institute, Utrecht U, Singapore Immunology Network (兼任), National U Singapore (兼任), Maastricht U, Erasmus U Rotterdam, U Medical Center Utrecht and Utrecht U, Leiden U Medical Center
ニュースリリース "Novel tissue-derived brain organoids could revolutionize brain research" EurekAlert! 2023-01-08 (Princess Máxima Center for Pediatric Oncology). https://www.eurekalert.org/news-releases/1030206

 医学生物学の研究には、健常および疾患のモデルが必要であり、これまでに、細胞モデル、動物モデル、そして数年前からは三次元のミニ臓器 (オルガノイド)、が開発されてきた。これらのモデルは、実験室で各臓器の機能を忠実にモデル化できるような特徴と複雑さを備えていることが期待される。一般にオルガノイドは各臓器の細胞から直接形成することができる。また、胚や一部の成体組織に存在する幹細胞から研究対象の臓器へと誘導・成長させることもできる。

 脳のオルガノイドの場合は、これまで脳組織からの直接形成の例は無く、特定の分子のカクテルを利用して、胚性幹細胞 (ES細胞) や多能性幹細胞 (PS細胞) を脳のさまざまな領域に相当する構造体に成長させるよう誘導・培養されてきた。


 BRAIN ORGANOID 1今回、オランダのユトレヒトにある研究機関を中心とする研究チームが初めて、ヒト胎児の脳組織の小片から出発することで、自己組織化を経て、直接脳オルガノイドが形成されることをCell 誌から報告した [Figure 1引用右図参照]。腸などの他の臓器の場合は、通常、元の組織を分解して得られる単一細胞からオルガノイドを形成することから、今回のアプローチには意外性がある。

 脳オルガノイドは米粒 (a grain of rice) ほどの大きさであるが、3次元構造は十分に複雑であり、さまざまな種類の脳細胞が含まれていた。特に、外層の神経前駆細胞 (外層の放射状グリア細胞 / outer radial glia: oRG)が多く含まれていたことは、このオルガノイドが、ヒトの脳に酷似していることを意味する。

 また、脳組織全体からは、細胞の接着・増殖・分化の足場 (scaffold) として機能する細胞外マトリックス (extracellular matrix: ECM) を構成するタンパク質も生成された。すなわち、iPS細胞から脳オルガノイドを形成する際に必要な足場を外部から供給する必要がなく、脳組織の小片が3次元脳構造へと自己組織化できた理由は、これらのタンパク質にあると考えられる。

 脳組織小片由来の脳オルガノイドは、由来する脳の特定部位の様々な特徴を保持し、脳の発生に重要な役割を果たすことが知られているシグナル伝達分子にも反応し、この脳オルガのいどが、脳の発達に関与する分子の複雑なネットワークを解明するプラットフォームとして有望なことを示唆した。

 研究チームは、脳組織小片由来オルガノイドが迅速に拡大することから、脳腫瘍のモデルとしての可能性を検討した。具体的には、オルガノイド内の少数の細胞において、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術を利用して、よく知られた癌抑制遺伝子TP53をノックアウト (KO)した。3ヵ月後、TP53 KO細胞は、オルガノイド内でTP53を保持している健常な細胞に対して優勢になっていた。すなわち、癌細胞の典型的な特徴である増殖優位性を獲得していた。

 Brain organoid 7続いて、同じくCRISPR-Cas9遺伝子編集技術を利用して、脳腫瘍の一種である膠芽腫に関連する3種類の遺伝子、TP53PTENNF1 を全てノックアウトしたTPN変異オルガノイドを使って、既存の抗癌剤に対する反応を調べた [Fig. 7の一部引用右図参照]。これらの実験から、特定の薬剤と特定の遺伝子変異を関連付けるという、抗癌剤創薬におけるオルガノイドの可能性が示された。

 脳組織小片由来オルガノイドは、in vitroで6ヵ月以上成長し続けた。TPN変異膠芽腫モデルオルガノイドも、同じ突然変異の組み合わせを維持したまま増殖した。この特徴により、脳オルガノイドは、繰り返す実験を可能にし、研究結果の信頼性向上に寄与する。

 研究チームは、この新たな脳オルガノイドの可能性をさらに追求することを目指しているが、同時に、円滑な応用展開を実現するために、生命倫理学者たちとの共同研究を継続する。

Brain organoid GA[注1] 本研究の全体像: グラフィカルアブストラクト引用右図参照


[注2] 生命倫理に関して
 今回、ヒト胎児組織は、匿名化されたドナーからの妊娠12週目から15週目の中絶時に得られた。匿名ドナーは、インフォームド・コンセントに基づき、自発的に組織を提供した。提供された胎児組織は研究目的にのみ使用され、その研究内容には、提供された胎児組織に由来する細胞を培養する可能性を含め、臓器がどのように正常に発達するかを理解することも含まれることが説明された。