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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Cooperativity between Cas9 and hyperactive AID establishes broad and diversifying mutational footprints in base editors" Berríos KN [..] Shi J, Kohli RM. Nucleic Acids Res. 2023-01-23. https://doi.org/10.1093/nar/gkae024 [著者所属] Perelman School of Medicine (UPenn)

 シトシン塩基エディター (CBE)は、AID/APOPECファミリーのDNAデアミナーゼ活性と、CRISPR-Casのターゲティング機能の協働により、C-to-T変換を実現する。第一世代のベースエディター (BE1) では、ラットAPOBEC1 (rA1) を触媒活性を不活性化したdCas9と融合させ、sgRNAを介してrA1を標的部位に誘導することで実現された。

 BE1以来、正確な編集を行うため、あるいは標的部位に多様な変異を生じさせるために、いくつかの戦略が採用されてきた。効率を向上させるBEの主な改良点は以下の通りである:
  • BE2エディターにおける塩基除去修復を抑制するためのUGI [ウラシル-DNAグリコシラーゼ (UDG)の阻害剤]の導入、
  • BE3エディターにおけるNTS変異よりも複製を促進するためのdCas9のTSニッカーゼ (Cas9-D10A: nCas9)への置換
  • BE4maxエディターにおける第2のUGIの追加に伴う哺乳類コドンの最適化
 また、ヒトAIDやAPOBEC3酵素を含むrA1以外のデアミナーゼや、改変TadA変異体を用いることで、rA1に依存しないCBEやアデニン塩基エディター (ABE) が開発され、様々な特徴を持つBEsが開発されている。さらに、Cas9を改変することで、塩基エディターの標的範囲を拡大するなどの機能向上が実現されてきた。

 その一方で、CBEが作動する分子機構に関する疑問は依然として解決されていない。特に、dCas9/nCas9とデアミナーゼがどのように協働して塩基編集を促進するのかという重要な問題は、まだ十分に解明されていない。

 BEを介した突然変異誘発の現在のモデルは、NTSにおける突然変異に焦点を当てた多段階のプロセスを表現している: CBE1dCas9/nCas9のDNAヘの結合とDNA二重鎖の巻き戻し (sgRNAの相補鎖 (targete sequence: TS)への結合とR-ループ形成を介した非標的鎖 (NTS)の露出 、AID/APOBECによるNTSに由来するssDNAバブルの捕捉と酵素的脱アミノ化、そしてTSのニッキングとウラシルの処理 [Figure 1引用右図の A参照]。この段階的なメカニズムを考慮すると、各段階におけるCas9の関与とDNAデアミナーゼの作用の相互作用を明らかにすることが、BEの継続的な最適化と拡張を促進し、次世代のゲノム工学ツールの開発を支援する可能性がある。

 本研究では、CBE GAnCas9とAIDの協働がどのようにし塩基編集を実現するのかについて、完全な機構モデルを構築することを目指した。この目的のために、様々な超高活性な (hyperactive) 活性化誘導シチジンデアミナーゼ (activation-induced deaminase: AID) を組み込んだ塩基エディター (hBE) を導き出し [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]、その特徴的な多様化活性を利用することでモデルを構築した [*]。

 また、モデル構築の過程で得られた知見をもとに、65bpを超えるウィンドウにわたってC>TおよびG>A転移を同時に効率的に発生させる特徴的で新規な能力を持つ、標的遺伝子を多様化するBEを実現した。

 我々の体系的なアプローチは、Cas9とAIDによってBEの変異ランドスケープがどのように協調的に確立されるのか、また、それらの活性を改変することによって、多様なバイオテクノロジー応用のための新たな遺伝子編集の成果をどのように発見できるのかを示している。


[*]
 本研究の機構モデルは、CBE 4CBEの各過程における、シスで作用する2つのDNA修飾タンパク質、nCas9とAIDの協働作業を表現している [Figure 4引用右図参照]
 nCas9とデアミナーゼがBEとしての結果をもたらす様式でBEの1) hBEが標的部位に遭遇した初回におけるRループの性質が、AIDがNTSとTSのどちらに結合するかを決定する:TSとsgRNAが完全一致の場合は、AIDによるNTSの編集が促進されるが、オフターゲット部位またはオンターゲット部位への2回目の遭遇時に起こるミスマッチはAIDによるTSの編集を促進する。
2) AIDは、一旦鎖に結合すると、進行しながら複数のC>U変異を導入し、この編集の数と編集ウィンドウのサイズは内在性デアミナーゼ活性に依存する。
3) Cas9の結合は編集の境界を規定し、NTSの編集はプロトスペーサーの内側でピークに達し、TSの編集はプロトスペーサーの外側でピークに達する。
4) 一方の鎖にニックが存在すると、もう一方の鎖の編集が増加する。このように、メカニズムの各段階において、活性はシスで作用する2つのDNA修飾タンパク質、Cas9とAIDの協同作用によって決定される。
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