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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Errors found in dozens of papers by top scientists at Dana-Farber Cancer Institute" Science News Staff. Science 2024-01-22.  https://doi.org/10.1126/science.z0oibzm

 癌研究において最も知名度の高い研究機関の一つであるダナファーバー癌研究所 (Dana-Farber Cancer Institute: DFCI)が、所長と3人の上級研究員による数十本の論文が "絶望的に誤りが多い (hopelessly corrupt with errors)"とフリーランスのデータ調査者から指摘されたことを受け、内部調査の結果、撤回または訂正する必要があると判断した。

 2024年1月2日に、ウエールズ在住の細胞生物学・分子生物学の博士号持ちながらて失業中のSholto Davidが、PubPeer (パブピア) と呼ばれる研究者が発表された研究を批評したり議論したりできるサイトのブログ"For Better Science" に"Dana-Farberications at Harvard University"と題する記事を投稿した [*1]。その記事は挑発的な「基礎研究に何十億ドルも投資しているにもかかわらず、がん研究の進歩が遅いのはなぜだろう?その根源はアジアのペーパー・ミル (paper mill)にあるわけではないし、シチリアの大学にあるわけではない。彼らはアメリカの権威ある研究機関を模倣しているだけなのだ。中でも模倣に値する研究機関として、ハーバード大学とそのダナ・ファーバー癌研究所以上の権威はない」という書き出しに続いて、DFCI理事長兼CEOのLaurie Glimcher、最高執行責任者 (COO) のWilliam Hahn、シニア副理事長のIrene Ghobrial、DFCIセンター長のKenneth Andersonが共著した1997年から2017年までの論文57本に問題あり、と指摘した。なお、Davidは、過去3年間、2,000以上の論文に「問題あり」のフラグを立ててきた [*2]

 論文の大部分は癌発生の基礎生物学を扱っており、ビッグジャーナルとされるCell Nature MedicineScience を含む様々なジャーナルに掲載されていた。Davidの指摘は、同大学の独立系学生新聞であるHarvard Crimsonによって最初に報道され [*3]、その後STAT News が続報してきた[*4-6]

 Davidはたとえば、「同じ論文のタンパク質ブロット、バンド、データグラフなどの画像において、同一に見えるような部分を含む図が、2度使われており、この誤り (mistake) の中には、偶然に起こったとは考えにくいものがある」と指摘した。一方で、「今回の発見が研究不正の証拠になるかどうか」については明言を避けていた。

 DFCIのリサーチ・インテグリティ・オフィサーであるBarrett RollinsはScienceInsiderに対して「DFCIの著者がデータエラーの可能性について第一義的な責任を負っている」とし、「6本の論文の撤回と31本の論文の訂正を要求した」と述べた。Rollinsによれば、DFCIは、そのほかに、DFCIとハーバードの研究室からの16の論文を調査中であり、調査中の論文のうち3本には「データ異常 (data anomalies)」は無かったとのことである。

 RollinsはSTAT news に対し、調査は最長1年間続けられるが、誤りが科学的不正行為にあたるかどうかについてはコメントを避け、「論文に画像の齟齬があることは、著者が欺こうとした証拠にはならない」、「こうした指摘に対しては、事実に基づいた慎重な検証の後に結論を導き出す必要があり、私たちの経験では、誤りはしばしば意図的なものではなく、不正行為 (misconduct)には該当しない」と述べた。

 ジョンズ・ホプキンス大学の計算生物学者 Steven Salzbergは、一般論として、「誤りを訂正し、捏造や不正確なデータを含む論文を撤回することは、不正疑惑に直面した研究者が信頼と評判を回復するための第一歩である」「(私は) 自らの研究室における科学的不正行為 (scientific misconduct) を認識して論文を撤回した教授を知っている。しかし、もしあなたが誠実な科学者であれば、そうするのが普通であり、そこから立ち直るものです」とコメントした。

[引用記事]
  1. "Dana-Farberications at Harvard University" David S. For Better Science 2024-01-02. https://forbetterscience.com/2024/01/02/dana-farberications-at-harvard-university/
  2. "Whistleblowers flagged 300 scientific papers for retraction. Many journals ghosted them" ScienceIndiser 2023-01-23. https://doi.org/10.1126/science.za6mbju
  3. "Dana-Farber Cancer Institute Researchers Accused of Manipulating Data" Paulus VH, Ravi A. Harvard Crimson. 2024-01-12. https://www.thecrimson.com/article/2024/1/12/dana-farber-research-misconduct-allegations/
  4. ”Dana-Farber cancer researchers moving to retract one paper, correct others in broad investigation of manipulated data” Wosen J, Chen A. STAT News 2024-01-19. https://www.statnews.com/2024/01/19/dana-farber-cancer-institute-allegations-manipulated-data-glimcher/
  5. "Dana-Farber expands studies to be retracted to 6, plus 31 to be corrected over mishandled data" Chen A, Wosen J. Stat News 2024-01-22. https://www.statnews.com/2024/01/22/dana-farber-research-retractions-corrections/
  6. "From a small town in Wales, a scientific sleuth has shaken Dana-Farber — and elevated the issue of research integrity" Joseph A. Stat News 2024-01-27.https://www.statnews.com/2024/01/27/sholto-david-profile-dana-farber-retractions/
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