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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典]
 Eric Topolと、COVID感染・後遺症患者を対象とする大規模解析を続けてきたZyad Al-Alyが共著で、COVID後遺症を対象とする展望を、Science 誌とGround Truths のブログで発表した。

1. Science 誌展望記事から

 サーズウイルス2の感染によるCOVIDの後遺症 (以下、ロングCOVID) が存在することを示すエビデンスが、研究コミュニティーと患者が牽引する研究チームの貢献により、蓄積されてきた。また、ワクチン接種と抗ウイルス剤が後遺症予防に役立つというエビデンスとともに、COVIDの生物学的基盤の理解も進んできた。こうした進捗にもかかわらず、予防への取り組みは停滞しており、各国政府がこの分野の研究ニーズに長期的に取り組むかどうかは不透明で、ランダム化比較試験 (randomized controlled trials: RCT) で検証された治療法はまだない。

ロングCOVIDの様相
  • ロングCOVIDは、年齢、人種や民族、性別、感染前の健康状態の如何によらず発症する可能性があり、また、ほとんどの臓器にわたる可能性がある [Science 展望記事挿入図 参照]。また、急性期の重症度に応じてロングCOVIDの相対的リスクが高まるが、ロングCOVIDの症例の90%以上が、圧倒的に感染者数がおかった軽症の感染者である。また、サーズウイルス2への再感染が、ロングCOVIDのリスクを高めるエビデンスも示されている。
  • サーズウイルス2は、ヒト組織内にその成分が持続的に感染し、また、ヒト組織内で休眠していた他のういるすを再活性化する可能性がある。
  • サーズウイルス2の感染リスクを軽減するためのマスク着用などの介入がほとんど放棄されたことから、ワクチンが感染急性期の重症化およびロングCOVIDに対する主要な防御手段になっている (ロングCOVIDのリスクを平均40% (15〜75%) 現象させる) が、一般にブースター接種は進んでいない。抗ウイルス薬や糖尿病治療薬メトホルミンによるロングCOVID抑制効果の報告があるが、リスクとメリットを検証する必要がある。
ロングCOVID対策の遅れ
  • ロングCOVIDの発症機構、疫学、予防に関する知見が蓄積されてきたにもかかわらず、ロングCOVID患者への対応が遅れているばかりでなく、しばしば懐疑的に見られまた心身症と診断される。ロングCOVIDを認識し管理できる医療従事者を育成する必要がある。
  • ロングCOVIDの用語、定義、臨床試験のエンドポイントの標準化が遅れていることが、治療法の研究開発や臨床試験への動きを鈍らせている。
  • インフルエンザ、ポリオ、およびエプスタイン・バーウイルス感染症の長期追跡調査から、これらの感染症による後遺症が数十年後に発生する可能性があることが証明されており、COVIDにつても、そのリスクを明らかにしていく研究が必要である。
  • サーズウイルス2感染から慢性疾患に至る機構を深く理解し治療法を開発するための動物モデルの開発や、複雑な疾患であるロングCOVIDをモニタリングするために必要な多様なバイオマーカーの特定と、そうした多次元バイオマーカーからロングCOVIDの診断と治療法を探るAIシステムが、必要である。
  • ロングCOVID対策として、反科学、反ワクチン運動と結びつき、ロングCOVIDとワクチンの有害事象の混同するなど、ロングCOVID否定論にも対処することも重要である 。
    [注:日本の関連状況数例]
     [死ね」コロナ感染の男子高生に批判殺到 患者の苦しみと後遺症のリアル.  ダイアモンド・オンライン. 2020-09-19;今も続く誹謗中傷 コロナ対応医師が戦い続けるワケとは. 毎日新聞Webサイト. 2023-12-96;「ヤブ医者」「金のため」コロナ禍に誹謗中傷投稿、発信者特定し賠償命令も…. 読売新聞Webサイト 2024-02-03. 
  • ロングCOVID対策の遅れの一因は、急性期の感染者、入院者、死亡者を集計すれば、感染症による健康被害を把握するのに十分であるという概念に基づいたこれまでの感染症の疫学とサーベーランス・システムにもある。すなわち、感染症による長期的な健康被害は考慮されないため、感染症の真の被害は不明瞭である。また、世界の多くの地域でサーベイランスや医療のためのデータシステム自体が存在しないことも課題である。
ロングCOVID対策の勧め
  • ロングCOVIDは、典型的なロングCOVIDに加えて、さまざまな疾患のリスクを増大させ、長期にわたって医療システムへの需要を押し上げ、平均寿命の低下を招き、さらには、児童の成長に影響を与え、成人の労働参加と経済生産性を低下させる。
  • これらの課題に対処するためには、感染と再感染の予防と治療法の開発が求められる。前者については、マスク着用や濾過や換気による空気の質の改善といった介入を積極的に行うべきであり、空気中の病原体の抑制を義務付け、より安全な室内空気を確保するための建築基準法の更新を真剣に検討すべきである。また、ワクチン接種率を高める戦略を取るべきである。
  • 政府と資金提供機関は、サーズウイルス2に限らず感染症に関連した慢性疾患の包括的な研究ポートフォリオを支援し、新興感染症に関連した慢性疾患に関する洞察を提供し、将来のパンデミックによる慢性的な健康喪失の負担を軽減する戦略に役立てるべきである。
 COVIDパンデミックによる世界はすでに甚大な犠牲を払ってきたが、ロングCOVID対策を謝れば、今後も、甚大な犠牲を払い続けることになるだろう。
 
2. Ground Truths ブログ記事から

 ロングCOVIDに関する最近の発見を以下の構成で紹介:

[参考] 日本のロングCOVID対策の状況

 厚労省のWebサイトに新型コロナ後遺症に関するページ「新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)について」が用意され、厚労省の新型コロナ後遺症への取り組みにつてもまとめられている。それによると、2020年から新型コロナ後遺症の実態調査が開始され、また、2021年からAMEDのプロジェクトにおいて新型コロナ後遺症の予防・診断・治療法に関する研究が開始され、現在継続中とされている。


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