[出典] 
REVIEW "The neurobiology of long COVID" Monje M, Iwasaki A. Neuron 2022-11-02/1-07. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2022.10.006 [所属] Stanford U, Yale U.
ブログ "Michelle Monje: The Brain in Long Covid and Cancer" Topol E. Ground Truths. 2024-02-25; https://erictopol.substack.com/p/michelle-monje-the-brain-in-long;Eric Topolが論文筆頭著者のM. Monjeにインタビューした記事.

 さまざまな神経症状や精神神経症状が、急性COVID-19 (acute COVID-19) と急性期から回復後にも見られ、ロングCOVIDとも称されるPACS (post-acute COVID-19 syndrome) PACS) /ロングCOVID (long COVID) の特徴にもなっている。ロングCOVIDは、COVID-19の確定症例または疑い症例中またはその後に発症し、多くの場合、軽度の感染 (mild infection) に引き続いて発症し長期にわたることもある一連の症状からなる症候群である。これらの急性および慢性の神経症状および精神神経症状には、嗅覚消失、味覚消失、認知障害、うつ病、不安症が含まれる。 こうした神経学的後遺症の中で顕著なのは、「brain fog (仮訳:脳霧)」として知られる長期にわたる認知障害症候群であり、注意力、集中力、記憶力、情報処理速度、実行機能の障害を特徴とする。

 神経炎症だけで、グリア細胞や神経細胞の調節障害を引き起こし、最終的には認知機能や精神神経機能に悪影響を及ぼす神経回路機能障害を引き起こす可能性がある。 免疫介在性神経細胞調節障害の影響の上に、虚血、神経系感染、細胞障害性免疫反応などの神経傷害のメカニズムが重なる可能性がある。実際、他の多くのウイルス、細菌、寄生虫の感染症は、急性感染後症候群 (post-acute infection syndromes: PAIS) において神経認知障害を引き起こす可能性がある。 PAIS患者の一部は、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群 (ME/CFS) を発症する。ME/CFSは、睡眠や休息によっても 軽減されない慢性疲労を伴う神経学的・免疫学的症状を伴う慢性的で衰弱性の疾患である。PAISと同様に、神経炎症は、癌治療後に頻繁に起こる認知機能障害症候群の特徴である。ロングCOVIDの機序を理解することは、感染症や他の免疫チャレンジの後に起こりうる神経学的・精神神経学的機能障害の他の症候群と共通する神経系病理生物学の統一原理を解明するのに役立つかもしれない。

 COVID-19が中枢神経系に影響を及ぼす機序として、少なくとも6つの経路が想定される [Figure 1引用挿入図参照]。
  1. Tne neurobiology of long COVID呼吸器系におけるサーズウイルス2に対する免疫応答が神経炎症を引き起こし、サイトカイン、ケモカイン、および脳内の免疫細胞輸送を増加させ、脳および脳境界に常在するミクログリアやその他の免疫細胞の反応状態を誘導する可能性
  2. 稀ではあるが、神経系に直接感染したサーズウイルス2による可能性
  3. サーズウイルス2は神経系に対する自己免疫反応を引き起こす可能性
  4. エプスタイン・バーウイルスのような潜伏ヘルペスウイルスの再活性化が神経病理を誘発する可能性
  5. 脳血管障害および血栓性疾患が血流を乱し、血液脳関門機能を破壊し、神経細胞のさらなる神経炎症および/または虚血の一因となる可能性
  6. 重症のCOVID-19で起こる肺や多臓器の機能障害は、低酸素血症、低血圧、代謝障害を引き起こし、神経細胞に悪影響を与える可能性
 これらの機序は相互に排他的ではなく、個体によって頻度や時期の差はあれ、複数の機序が組み合わさって起こる可能性がある。

 本レビューでは、感染急性期以降のCOVID-19の脳への影響について明らかになってきたこと、COVID-19が誘発する神経傷害の前述の6つの機序、およびロングCOVIDに伴う認知機能障害の神経生物学的基盤を明らかにする緊急の取り組みに向けて残されている未解決の問題について、概説する。

[論文の構成]
  • Introduction
  • Neural-immune interactions and cognitive function
  • Clinical syndromes and scope of the COVID-19-related neurological health crisis
  • Human neuroimaging studies
  • Respiratory inflammation can cause neuroinflammation and neural dysregulation
  • Auto-immune mechanisms
  • Direct brain infection
  • Reactivation of latent herpesviruses
  • COVID-19-associated coagulopathy and cerebral vasculopathy
  • Hypoxia and other aspects of critical illness
  • Concluding thoughts and future directions
[注] 筆頭著者のM. Monjeは、Eric Topolのインタービューの中で次のように述べている:

 私は化学療法だけでなく、放射線療法や免疫療法など、癌治療後に起こりうる認知障害を研究してきました。新しいモデルを開発し、何が起こっているのか、これらの癌治療が神経系にどのような影響を及ぼすのかを理解するために掘り下げていくたびに、ミクログリアがある種の統一原理として浮かび上がってきます。ミクログリアの反応性、そしてその反応性が神経系内の他の細胞タイプに及ぼす影響です[*]」
[*] 脳霧は必ずしも脳神経系のサーズウイルス2の直接感染によるとは限らず、サーズウイルス2の感染とそれに伴う呼吸器疾患などに反応したミクログリアの正常な調節機能が失われることで発症する。

 少なくとも実験室での前臨床モデルでは、化学療法によって引き起こされる認知機能障害には、ミクログリアとその毒性あるいは免疫的チャレンジに対する反応状態が中心であることが理解され、ヒト組織研究でも確認されました。この症候群は、注意力、記憶力、実行機能、情報処理速度、マルチタスク能力などの障害によって特徴づけられていました。

 COVID-19パンデミックが始まってわずか数ヵ月後、まさにこの症候群を訴える人々が神経科医に殺到し始めた。私はこの症候群を研究する必要があると感じ、それが (レビューの共著者でもある) 岩崎明子との素晴らしい共同研究の始まりとなった。

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