(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/02/17

 インフルエンザウイルス表面の抗原性糖タンパク質ヘマグルチニン(HA)の保存性の高いステム部分に結合する抗体はin vitro でウイルスの宿主細胞への融合を阻害し、広範なインフルエンザウイルスを中和する(広域中和抗体(broadly Neutralizing Antibodies: bnAbs)(注*).BnAbsはin vivo では、Fc-Fcγ受容体の相互作用を介して宿主の免疫応答を誘導することによって、ウイルスを中和する(抗体依存性細胞傷害(Antibody-Dependent-Cellular-Cytotoxicity: ADCC). (注*)挿入図参照
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  • David Baker (Inst. of Protein Design)らは、HAのステム領域にbnAbsと同等以上の親和性で結合する小型のタンパク質をRosettaソフトウエアで設計していたが、bnAbsと異なりFcを欠いておりin vivo で抗ウイルス性を発揮するか不明であった.今回、ウイルス研究のDeborah Heydenburg Fullerらと共同で、HAステム結合タンパク質の一つ、アミノ酸97残基からなるタンパク質HB36.5を、deep mutational scanning法を利用して最適化し、得られたタンパク質HB36.6の効力をin vitro およびマウスin vivo において検証した.
  • [In vitro ] HB36.6は、H1N1亜型ウイルスとH5N1亜型ウイルスに対して、bnABsの一つであるFI6v3と同等の効力を示し、リバビリンより強力であった.
  • [マウスIn vivo]
    • 致死量のウイルスに暴露する前の2時間、24時間または48時間前にHB36.6を鼻腔から1回投与した.48時間前の投与はウイルス感染を完全に予防し、また、HB36.6を投与しなかったコントロール群が死亡した一方で、投与したマウスは全て生存し、体重減少もほとんど示さなかった.
    • ウイルスに暴露し、1日後にHB36.6を10.0mg1回投与した効果は、1日2回5日間オセルタミビル(タミフル)を1日2回5日間投与するよりも高い効果を得られた.
    • また、ウイルス感染後少量のHB36.6を投与し、日に2回タミフルを投与すると、ウイルス感染マウスが全て生存し、HB36.6とタミフルが相乗作用を示すことが明らかになった.
    • HB36.6は、免疫不全モデルマウスにおいても有効であり、bnAbsと異なり宿主の免疫応答を必要とないことから、老齢の患者や免疫不全を起こしている患者にも効力を示すと想定される.