[出典] "High-throughput evaluation of genetic variants with prime editing sensor libraries" Gould SI [..] Rivera FJS. Nat Biotechnol. 2024-03-12. https://doi.org/10.1038/s41587-024-02172-9 [所属] Department of Biology (MIT), David H. Koch Institute for Integrative Cancer Research, Merkin Institute of Transformative Technologies in Healthcare, Harvard U, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, U CAS (Beijing)

[背景]

 腫瘍細胞のゲノムは通常、一塩基変異 (SNV) , コピー数変化,染色体再配列といった多様な変化をきたしている。こうした腫瘍細胞特有の遺伝子型が、癌の発症、進行、治療効果を決定することになるが、癌患者に見られる数千種類もの変異が生理機能に与える影響については、まだ十分に理解されていない。そこで、癌の精密医療・個別化医療を実現するには、遺伝子型と表現型の因果関係を、薬剤、組織、および環境からなるコンテクストの中で、ハイスループットで同定する技術が求められている

 癌をはじめとする疾患に見られる遺伝子変異の生物学的意義を同定するアプローチは最近まで、低スループットの相同性指向性修復 (HDR) をベースとする手法か、ハイスループットの生理的にはあり得ない遺伝子過剰発現をベースとする手法にに限られていた。前者の手法は、対象が主に活発に分裂している細胞に限定されることなどHDRの適用に限界がある。後者の手法は、HDRをベースとする手法に比べれば制限が少なく、スケーラブルであるが、内因性の遺伝子制御機構が存在しない状態での実験になるため、生理学的な再現性が保証されない。近年、塩基編集 (BEs)やプライム編集 (PEs) を含む精密ゲノム編集ツールが開発され、編集効率が向上し、理論的にはより高いスループットで変異体をヒト体内のコンテクストでモデル化できるようになった [* 1, 2, 3]

 Prime EditorPE [*3] は標的を検索するためのプロトスペーサーに加えて標的部位に導入すべき変異 (置換配列) を帯びた3′末端伸長配列を帯びたpegRNAを介して編集が進行する [右図モデル図参照]。PEによって、すべてのSNVや小さな挿入・欠失 (indel) を含む、あらゆるタイプの小さな変異を効率的に生成でき、ハイスループットで内因性変異体の解析にすでに利用されてきた [*4, 5, 6]。具体的には、pegRNAsのライブラリーをPEを発現させた細胞に一過性または安定的に導入し、内因性の対立遺伝子やpegRNAの相対的な分布を決定することによって変異体の適合性を評価する。このアプローチでは強力な編集機能をりようできるが、変異体の解析にあたっては、変異体に特異的であるがその活性が未知のpegRNAに依存すること、スケールアップした場合に内因性ゲノム編集を定量的に評価できないこと、編集効率を高めるためにPEのバージョンの中で非編集鎖をニッキングする追加のガイドRNAを使用するプライムエディターシステムであるPE3を使用するために望ましくないindelの過剰発現の可能性があること、などからスクリーニンへの利用には限界があった。

[方法と結果]

 研究チームは今回、pegRNAライブラリーのハイスループット設計、スクリーニング、デコンボリューションのための統合的な計算と実験の枠組みを開発し、多様な遺伝子変異の効率的な解析法を開発した。PEG Fig, 1 a, b, cこれには、各pegRNAを、内因性標的遺伝子座のネイティブな構造を再現する変異体特異的合成「センサー」部位と組み合わせることが含まれる [Fig. 1から一部引用した右図の b 参照]。このセンサーに基づくアプローチは、pegRNAと編集結果を結びつけ、pegRNA編集活性のハイスループットな定量化とスクリーニングデータの経験的較正の双方を可能にする。

 研究チームは、p53転写因子 (TP53 遺伝子) をモデルとして新たなアプローチを検証した。TP53 は癌で最も頻繁に変異する遺伝子であり、多様な対立遺伝子変異を示し、機能的に異なる表現型を生じうる変異タンパク質の生成につながる可能性がある。これまでは、cDNAをベースとする外因性過剰発現系を用いて、p53変異体の適合性が解析されてきたが、前述したように、生理的レベルを超えた変異体の発現に依存していることから、研究チームは、p53の変異体に関連する1つ以上の表現型を誤って表現する可能性があるという仮説を立てた。すなわち、p53は4量体として機能し、その発現と分解は細胞によって厳密に制御されているところで、過剰な発現によってp53の化学量論的バランスが変化すると、特定のp53変異体の影響について誤った結論が導き出される可能性がある。

 この仮説のもとで、研究チームは4万人以上の癌患者にみられた1,000以上のTP53  変異体を標的とする28,000以上のpegRNAライブラリーを作製し、PE Fig. 1 e,f,g,hスクリーニングした。患者に見られるSNV、挿入および欠失、コントロールとして推定される中立的なサイレント置換、そして機能探索空間を広げるためのランダムなインデルのパネルが含まれた [Fig. 1 d/e/f/g/h引用右図参照]。これらの実験により、p53の機能にメカニズム的に多様な影響を与える対立遺伝子が同定された。ある種の内因性変異体、特にp53オリゴマー形成ドメインに見られる変異体は、外因性過剰発現系で試験すると正反対の表現型を示すことを発見した。

[結論]

 今回得られたデータから、ヒトのがんで観察される変異対立遺伝子の膨大な多様性を研究する際には、遺伝子量、タンパク質の化学量論、および、タンパク質間相互作用ドメインを、重要なパラメーターとして取り扱う必要があることが明らかになった。これらのパラメーターを考慮しないと、特定の患者集団で同定された変異体を含め、真に病原性のある変異体を見逃すことになる。PE  Web saite

 本研究で確立したプライム・エディティング・センサ・ライブラリを生成するツールであるPythonパッケージPrime Editing Guide Generator (PEGG)  はhttps://pegg.readthedocs.io/en/latest/から公開した [Webページ引用右図参照]

[引用crisp_bio記事と論文]
  1. CRISPR関連文献メモ_2016/04/21 [第2項]  DNA二本鎖切断を介さずに、ゲノムDNA中の1塩基を編集;“Programmable editing of a target base in genomic DNA without double-stranded DNA cleavage” Komor AC [..] Liu DR. Nature. 2016-04-20/05-19. 
  2. 2017-10-26 D. R. LiuのDNA1塩基編集法 "ABE" とF. ZhangのRNA1塩基編集法 "REPAIR"  [第1項] ABE (adenine base editors);“Programmable base editing of A•T to G•C in genomic DNA without  DNA cleavage” Gaudelli NM [..] Liu DR.Nature. 2017-10-25. 
  3. [20200508更新] David R. Liuグループからプライムなゲノム編集法 - BEsに続くPEs ;"Search-and-replace genome editing without double-strand breaks or donor DNA" AnzaloneAV [..] Liu DR. Nature 2019-10-21. 
  4. [20220313更新] プライム・エディティング (PE)をベースとする飽和ゲノム編集によるVUSの機能同定;"Saturation variant interpretation using CRISPR prime editing" Erwood S, Bily TMI, Lequyer J [..] Ivakine EA, Cohn RD. Nat Biotechnol. 2022-02-21. 
  5. 2023-12-28 ハイスループットPE (プライム編集) スクリーンにより, ヒトゲノムにおける機能的DNAバリアントを同定 ;"High-throughput PRIME-editing screens identify functional DNA variants in the human genome" Ren X, Yang H [..] Shen Y. Mol Cell. 2023-12-21. 
  6. "A multiplex, prime editing framework for identifying drug resistance variants at scale" Chardon FM [..] Berger AH, Shendure J, Starita LM. bioRxiv. 2023-07-30 (preprint).