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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

- Katelyn Jetelinaとの対話をベースとするブログ記事
[出典]
[関連crisp_bio記事] 2022-09-20 科学に対する信頼が揺らぎ、科学的エビデンスが軽視される件 

 Pew Research Centerの報告によると、米国では「科学者は公衆のために最善を尽くす」と信頼する人々の割合が、2019年1月から2020年11月までの85%前後から、2023年の10月には73%まで低下し、それに否定的な人々の割合が15%弱から27%へと増加した。なお、共和党支持または共和党よりの人々の間では80%から61%への低下であり、民主党支持または民主党よりの人々の間でも91%から86%へと低下した。このブログ記事は、パンデミックの間に科学・公衆衛生当局への信頼を失った人々からの情報をベースにしている。

1. 全てが「売り込み」に聞こえた

 抗ウイルス薬パクスロビドからワクチン、マスク、換気まで、公衆衛生を守る手段が、中古車の売り込みのように聞こえたし、今でも、そう聞こえる。

1. 1. データが「売り込み」の根拠になるのではなく、「売り込み」の材料になるようにデータが作られているように見えた。
  • 楽観的すぎる主張にはデータによる裏付けが十分でなかった。
  • COVIDのリスクが誰でも一様のように伝えられたことから、若者へのリスクが誇張された。
  • 潜在的なワクチンの効果低減と副反応・副作用の話は聞こえてこなかった。
  • ブースターを「売り込む」時期になると、当局は急に、ワクチンの予防効果はすぐに薄れると言い出した。
1. 2 .そもそも欠陥のあるデータに基づく主張がなされた 
  • 例えば、CDCは当初、欠陥のあるデータに基づいて、COVIDが小児の死因のトップ5に入っていると主張した。
  • このような明らかなミスがあったのに、公衆衛生当局に疑いの目を向けずにいられるだろうか?
1. 3 曖昧なメッセージ
  • 当局が発するメッセージがよく練られていなかったことから、誤解、ひいては、陰謀論がひろがった。
  • 例えば、前回の接種から2ヵ月後に2価ワクチンのブースター接種を受けるよう勧めたメッセージは、ブースター接種が2ヵ月ごとに勧められている、と受け取られた。
1. 4. 科学的コミュニケーションにみせかけた主張 (advocacy)が招く混乱
  • 不偏不党の科学者やジャーナリストを装いながら、自分の主張を支持する研究だけを紹介し、自分の解釈や価値観に合わない他の視点を攻撃する人が多数現れた。
  • 最近の例では、議会公聴会でロングCOVID (COVID後遺症) の議論が行われた際に、COVID研究の第一人者とされている医師 (the top long COVID doctors)の一人が 「ロングCOVIDによる疾病負担は癌や心臓病の負担と同等である」と発言した。また、主張に見合うようにデータの背景情報を無視した統計が記載されたチラシも配られた。
  • 一般の人々にとって、誰が真っ当で (straight shooter) で、誰が、思惑を隠したアクティビストなのかを知るのは難しい。
2. 役に立ちそうに思える情報が提供されなかった

 自分自身や自分の子供、あるいはCOVIDが発症した両親のケア方法を判断するに足る基本的で実用的な情報を見つけることができなかった。例えば、 水分補給は有効か?必要に応じて市販の解熱剤を使うべきか?気をつけるべき兆候とは?COVID患者が退院に向けてなすべきこと、などに関する情報である。

 また、重度のCOVIDを経験した子供や若者について、もっと調査が行われることを期待していた。確かに、COVID感染症の影響を最も受けにくいのは子供だが、一方で、影響を受ける子供も存在したのに、保護者が具体的にどのような危険因子が最大の懸念事項なのかを聞くことは無かった。それどころか、すべての危険因子が一様に扱われたため、リスクの高い人はそれに気づかず、リスクの低い人は過度に恐れることになった。

3. すべてが誤報であり、何も誤報ではない

 多くの意見 (opinions) が否定できない事実として扱われ、それに反するものは誤報と呼ばれ、白か黒かの議論に陥った。多くの場合、それはエンビデンスの読み違いや、エビデンスに基づく価値判断の違いがもたらしたものであり、多くのことが、表明されているほど白黒はっきりしていなかった。

 学校閉鎖やワクチン接種後の心筋炎のリスクなど正当な意見を述べる人々はすべてオオカミ少年のように「誤った情報」を言い立てていとみなされた。このような状況に陥ると、検証可能な虚偽の主張に対抗する場合でも、公衆衛生当局が信頼されることは難しい。

4. 個人個人が体験したことと聞いていた話とが食い違う

 COVIDによって重篤な病気になった人も、多くの医師が治療行為の中でトラウマを負ったのは確たる事実だが、COVIDで入院したり死亡したりした人を実際に知っていた人は絶対数としては決して多くなかった。病院は最悪のケースに対処していたが多くは1、2週間発症して回復し、その後日常生活に復帰した。したがって、CDCの「次の感染症は最悪のものになるかもしれない」とするメッセージは、無症状はもとより軽度のCOVIDを経験した人々にとっては眉唾に聞こえた。

5. いくつかのことが改善されつつある
[ブログ著者Kelley Krohnertの意見 (opinion)]

 私もここで指摘されたような過ちを犯したことは認めるし、Katelyn Jetelinaの指摘は私が学んだ教訓のいくつかに相応している。しかし、公衆衛生当局がこの緊急事態に心血を注いだことも知っている。私たちは、ポジティブな面でもネガティブな面でも、学んだ教訓が、生かされていくことを願う。実際、他に選択肢はないのだから。

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