- 中国で病死した50歳の男性に移植されたブタ肝臓は継続的に胆汁を分泌
2025-03-28 第四軍医大学西京医院の異種移植の事例は2024年にNature誌がニュース記事で取り上げられていた。その成果をまとめた論文がNature 誌から出版された: "Gene-modified pig-to-human liver xenotransplantation" Tao KS, Yang ZX, Zhang X [..] Dong HL, Wang L, Dou KF. Nature 2025-03-26. https://doi.org/10.1038/s41586-025-08799-1 [著者所属] Fourth Military Medical U (Xijing Hospital: Hepatobiliary Surgery, Nephrology, Ultrasound, Experimental Surgery, Cardiovascular Surgery, Pathology, Clinical Laboratory Medicine, Radiology, Critical Care Medicine, Anesthesiology and Perioperative Medicine, Transfusion Medicine, Urology), Chengdu Clonorgan Biotechnology Co. Ltd
第四軍医大学西京医院の研究チームは、10年以上にわたり、肝臓異種移植研究を行ってきた。2013年に、中国で初めてブタからサルへの異所性補助肝移植を成功させ、レシピエントのサルと移植されたブタ肝臓はともに14日間生存した。それ以来、単独または他のグループと共同で、ブタからサルへの肝臓、心臓、腎臓、角膜、皮膚、骨の異種移植と、ブタからヒトへの皮膚の異種移植を行ってきた。今回は、6つの遺伝子を編集したブタの肝臓を脳死者に異種移植し、ブタの肝臓がヒト体内で再生し、10日間の観察機関中、正常に機能したことを報告した。
[注] 異種移植の詳細は「初稿」を参照:ブログ記事タイトルを「[ニュース] 中国西京医院, 世界で初めて遺伝子編集ブタの肝臓のヒトへの移植に成功」から「中国西京医院が, 世界で初のブタからヒトへの肝臓移植の成功を, 査読付き論文にて発表」に改訂し、また、初稿の中に詳細データを追記した。
第四軍医大学西京医院の研究チームは、10年以上にわたり、肝臓異種移植研究を行ってきた。2013年に、中国で初めてブタからサルへの異所性補助肝移植を成功させ、レシピエントのサルと移植されたブタ肝臓はともに14日間生存した。それ以来、単独または他のグループと共同で、ブタからサルへの肝臓、心臓、腎臓、角膜、皮膚、骨の異種移植と、ブタからヒトへの皮膚の異種移植を行ってきた。今回は、6つの遺伝子を編集したブタの肝臓を脳死者に異種移植し、ブタの肝臓がヒト体内で再生し、10日間の観察機関中、正常に機能したことを報告した。
[注] 異種移植の詳細は「初稿」を参照:ブログ記事タイトルを「[ニュース] 中国西京医院, 世界で初めて遺伝子編集ブタの肝臓のヒトへの移植に成功」から「中国西京医院が, 世界で初のブタからヒトへの肝臓移植の成功を, 査読付き論文にて発表」に改訂し、また、初稿の中に詳細データを追記した。
2024-03-25 Nature 誌のニュース記事に準拠した初稿
[出典] NEWS "First pig liver transplanted into a person lasts for 10 days" Mallapaty S. Nature. 2024-03-20/21. https://doi.org/10.1038/d41586-024-00853-8 この移植手術の目的は、遺伝子組換えミニブタの臓器を病院での移植に使える可能性があるかを見ることにある。 中国だけでも、毎年何十万人もの人々が肝不全を発症しているが、2022年までに肝臓移植を受けたのは約6000人に過ぎない。
2024年3月10日に、中国西安市 (Xi’an) の西京医院 (中国人民解放军空军军医大学第一附属医院) の窦克峰 (Dou Kefeng)、陶开山 (TAO Kaishan)、王林 (WANG Lin)を含むチームは、元の肝臓はそのまま残したまま、およそ9時間の手術を経て、ヒトの血管と縫合するなどして700グラムの遺伝子編集ミニブタの肝臓を移植し、免疫抑制剤を毎日投与した。
移植された肝臓は、中国の成都にあるClonorgan Biotechnology社 (成都中科奥格生物科技有限公司) が繁殖させたBama種由来のミニブタから採取したものであり、移植に対する拒絶反応を回避するために6種類の遺伝子編集が施されている。移植手術から10日経過したところまでは、臓器拒絶反応の兆候は見られず、肝臓は毎日30 mLi以上の胆汁を分泌している [*]。
[*] 詳細データ
[*] 詳細データ
- 分泌される胆汁は術後10日目には66.5 mlに増加していた。
- アラニンアミノトランスフェラーゼ値は正常範囲を維持したが、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ値は術後1日目に上昇し、その後急速に低下した。
- ブタの肝動脈、門脈、肝静脈の血流速度は許容レベルを維持した。
- 血小板数は術後早期に減少したが、最終的には正常レベルに戻った。
- 組織学的分析では、拒絶反応の兆候なくブタの肝臓が十分に再生したことが示された。
- T細胞活性は抗胸腺細胞グロブリン投与によって阻害され、B 細胞活性化は術後 3 日目に増加し、その後リツキシマブによって阻害された。
- 免疫グロブリンGまたは免疫グロブリンMレベルに術中の有意な変化はなかった。
- C反応性タンパク質およびプロカルシトニン レベルは移植後当初は上昇したが、急速に低下した。
- 異種移植片は研究完了まで機能し続けた。
米国ボストンのMassachusetts General Hospitaの異種移植免疫学者であるDavid Cooperは、「この中国の研究は、ブタの肝臓移植が、たとえ数日間であっても人々を生かすことができるかどうかについての重要な洞察を与えるだろう」とコメントした。ブタの心臓の生きている人への移植 [*1]を行った米国メリーランド大学の外科医Muhammad Mohiuddinは、「病死した人への異種移植は生きている人への異種移植の可能性を評価するのに有用なモデルであるが、その有用性には限界がある」と指摘した。また、認知機能のない人が、人工呼吸器と提供されたブタの臓器でどれくらいの期間維持できるかは、まだ明らかではないという。記録に残っている最長症例は2ヶ月で、これは豚の腎臓を移植した例である [非ヒト霊長類への異種移植の場合は〜2年: *2]。
ペンシルベニア大学で、ブタの肝臓を利用して病死した人の体外灌流に成功したAbraham Shakedは [*3]、ブタ肝臓の異種移植というアプローチを疑問視している。心臓はポンプとして機能すれば十分であるが、ブタの肝臓は、解毒と老廃物処理は可能としても、ヒトの肝臓の他の機能に必要な幅広いタンパク質を生産することができない、と見ているからである。
心臓や腎臓の異種移植が長期的な臓器移植の可能性として注目されているのに対し、肝臓の異種移植は主に肝不全患者の短期的な治療法として考えられているのだ。例えば、アルコールや薬物の摂取によって肝臓が損傷した場合、既存の肝臓を再生させることができる。そこで、Shakedらは、異種移植のアプローチは取らなかった。一方で、西京医院の窦克峰は、「今回の手術のように、臓器置換を行うことで、免疫学や生理学的変化に関する情報など、より多くのデータを収集することができる」と付け加えた。
遺伝子編集ブタを臓器の供給源として開発している中国杭州のQihan Biotech社のCEOであるLuhan Yangは「どちらのアプローチがより有用かを判断するために、西京医院のチームが詳細を査読付き論文で発表することを望んでいる」と言う。また、Shakedは「西京医院チームの異種移植の詳細を知りたい。素晴らしいことなのです (It's fantastic)」とコメントした。
[ブタ臓器異種移植関連crisp_bio記事など]
- [*] [20231101更新] [ニュース] メリーランド大学メディカルセンター、2回目のゲノム改変ブタ心臓のヒト への異種移植を実施
- [*] [20240213更新] CRISPR-Cas9を利用して69種類の遺伝子改変を施したブタの腎臓をカニクイザルに移植し、最長2年間生存
- [*] 2024-01-23 [ニュースリリース] ペンシルベニア大学医学部, ブタの肝臓を利用した体外灌流に成功 - 肝移植への橋渡しを目指す
- [レビュー] ブタの臓器をヒトに異種移植するための次のステップ:"Next steps for the xenotransplantation of pig organs into humans" Montgomery RA, Mehta SA, Parent B, Griesemer A. Nat Med 2022-08-08. [所属] NYU Langone Health;ブタはヒトに移植可能な多様な臓器の供給源になる可能性があるが、異種移植の普及には、移植患者や一般市民の参加だけでなく、共同研究や試行を繰り返すことが必要である。
- [20220310更新] 米国FDA, 意図的にゲノムを改変した (IGA)ブタを食用および医療用として承認 - 2021年末,心臓移植を緊急承認
- [20220112更新] ブタの腎臓がヒトの腎臓として2日間機能した
- 2022-01-19 ブタ臓器移植に向けて,CRISPR/Cas3による遺伝子編集技術を評価
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- 2021-01-14 ブタ胚のゲノム編集効率にCRISPR/Cas9システムの注入法と注入時期が及ぼす影響を分析した
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- 2020-08-23 ブタからの臓器移植の障害となる異種抗原GGTA1をCRISPR/Cas9によりノックアウト
- 2019-12-19 ブタからの臓器移植拒絶反応回避に必要なブタ遺伝子の精密編集に向けたsgRNAの最適化
- 2017-08-12 ブタ臓器による移植医療の可能性を広げるCRISPRによる網羅的レトロウイルス不活性化(09/23関連記事追記)
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