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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

2024-05-14 移植手術を受けたRichard (Rick) Slayman氏は, 43日に退院した」と報じられていたが、511日に亡くなられたことが発表された。[出典] Family statement & Statement from MGHAn Update on Mr. Rick Slayman, World’s First Recipient of a Genetically-Modified Pig KidneyMassachusetts General Hospital 2024-05-11. https://www.massgeneral.org/news/rick-slayman-family-and-mgh-statements?cid=cor4658t&utm_medium=social&utm_source=twitter&utm_campaign=mgh-corporate

 ご家族は、声明の中で「移植後、Rickは、『自分がこの手術を受けた理由のひとつは、生き残るために移植を必要とする何千人もの人々に希望を与えるためだった』と語っていた。Rickクはその目標を達成し、彼の希望と楽観主義は永遠に続くだろう。」と述べた。

 MGHは、Slayman氏への感謝とご家族への哀悼の意を表しつつ「移植が原因であったということを示すものはありません (We have no indication that it was the result of his recent transplant.)」としている。

 異種移植の今後のために、MGHからの詳細な報告が待たれる。
[以下に、MassGeneral NewsのX投稿を引用]


2024-03-25 プレス発表とニュース記事に準拠した初稿
- この手術の成功を受けて、異種移植臓器の臨床試験への期待が高まっている
[出典] 
 マサチューセッツ総合病院 (MGH) は2024年3月21日に、末期腎不全 (end-stage kidney disease: ESKD) の62歳男性への遺伝子組換えブタ腎臓の移植に世界で初めて成功した、と発表した。Mass General Transplant Centerにおいて、腎移植メディカルディレクターのLeonardo V. Riella医学博士、Legorreta 臨床移植トレランス (tolerance)センター長の河合達郎医学博士、移植外科暫定部長兼腎移植外科部長のNahel Elias医学博士のリーダーシップの下で、4時間に及ぶ手術を経て、69のゲノム編集を施した遺伝子編集ブタ [*]の腎臓を生体患者に移植することに成功した。患者であるマサチューセッツ州WeymouthのRichard ‘Rick’ Slayman氏はMGHで順調に回復しており、間もなく退院できる見込みである。なお、Slayman氏は新しい免疫抑制剤を処方された。 Eledon Pharmaceuticals社のエレドン・ファーマシューティカルズ社から提供されたtegoprubart とAlexion Pharmaceuticals社から提供されたravulizumabという新しい免疫抑制剤の注入を受けた。

 Mass General Brigham (以下, MGB)は、1954年にBrigham and Women’s Hospitalで行われた世界初の人体臓器移植 (腎移植) の成功以来、臓器移植の先端を走ってきた。MGBのCEOであるAnne Klibanski医学博士は「MGBの研究者と臨床医は、医療を変革し、患者が日常生活で直面する重大な健康問題を解決するために、常に科学の限界に挑戦しています」「最初の腎臓移植の成功から70年近くが経ち、当クリニックの臨床医は、革新的な治療を提供し、当クリニックの患者さんや世界中の人々の病気の負担を軽減するために尽力していることを改めて証明しました」と述べた。河合達郎センター長は「この移植の成功は、数十年にわたる何千人もの科学者と医師の努力の集大成です。私たちは、この画期的な出来事において重要な役割を果たせたことを光栄に思います。この移植法が、腎不全に苦しむ世界中の何百万人もの患者に命綱を提供することになればと願っています」語った。

 生きている移植患者におけるこの手術の成功は、世界的な臓器不足を解決する可能性を秘めた異種移植の分野における歴史的な出来事である。全米臓器共有ネットワーク (United Network for Organ Sharing : UNOS) によれば、米国では10万人以上が臓器移植を待ち望んでおり、毎日17人が臓器を待ち望んで亡くなっている。腎臓は移植に必要とされる最も一般的な臓器であり、Journal of the American Society of Nephrology 誌に掲載された文献によれば、米国では2030年までに末期腎不全の割合が29~68%増加すると推定されている。

 長年2型糖尿病と高血圧を患っていたSlayman氏は、7年前に透析を受けた後、2018年12月にMGHで河合医師が行ったヒト死亡ドナーからの腎臓移植を受けたことがある。移植された腎臓は約5年後に不全の徴候を示し、Slayman氏は2023年5月に透析を再開した。透析再開後、彼は透析バスキュラーアクセス不全の再発に遭遇し、血液凝固除去や外科的再手術のために2週間ごとの通院が必要となり、彼のQOLが大きく損なわれることになった。これは、透析患者共通の問題である。

 今回の異種移植は、米国FDAの「Expanded Access Protocol (EAP) 」あるいは「Compassionate use」に基づき行われたものでる。これは、生命を脅かす重篤な疾患や病態を有する患者1人またはそのグループに対し、同等の治療選択肢や治療法が存在しない場合に、実験的な治療や試験を受けることができる制度である。

 中国の杭州にあるQihan Biotech社のCEOであり、今回利用されたブタを生産した米国のeGenesis社の創立者でもあるLuhan Yangは「今回の移植は、少なくとも短期的には、ブタの臓器が安全で、腎臓のように機能することを示している」言う。eGenesis社の分子生物学者であるWenning Qin (秦文寧) 氏によれば、eGenesisは、ブタの腎臓と小児の心臓の移植、そして体外灌流用ブタ肝臓の移植の臨床試験の計画について、FDAと協議中である。
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