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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Efficient scar-free knock-ins of several kilobases in plants by engineered CRISPR/ Cas endonucleases" Schreiber T [..] Tissier A. Mol Plant 2024-03-22. https://doi.org/10.1016/j.molp.2024.03.013 [所属] Leibniz Institute of Plant Biochemistry, Centre de Recherche (Limagrain)

[背景]

 CRISPR-Casエンドヌクレアーゼにより、DNA二本鎖切断 (DSB)からの非相同末端結合 (NHEJ) 過程を経て、遺伝子ノックアウトが日常的に行われるようになった。外来遺伝子のノックインも修復テンプレートを併用することで、DSBからの相同組み換え修復 (HDR) 過程を経て可能になった。しかし、植物や哺乳類では、DSBを修復する主要な経路が、HDRはなくNHEJであるため、遺伝子ノックインは困難であったり、極めて低効率であった。その後、DSBを経由しないゲノム編集ツールである塩基エディター (BE)、プライム編集 (PE)、あるいはCRISPR関連トランスポゾン (CAST)によって、個々の塩基の改変や、小さな配列や大きな配列ストレッチの挿入がそれぞれ可能になった。しかし、これらのアプローチは、編集標的部位の直近にCasエンドヌクレアーゼの標的配列が存在するかどうかに依存しており、フットプリントなしで (スカーレスで) 外来配列の大きなDNA断片を正確に統合したり置換したりすることはできない。

 HDRによるDSBの修復経路はすべて、DSB末端を処理してより長いフリーな3'末端 (> 25bp) を生成する必要がある。 Cas9エンドヌクレアーゼとCas12aエンドヌクレアーゼは、それぞれ平滑末端とオーバーハングを有する末端を生成する。独仏の研究チームは今回、これまでに報告があったエンドヌクレアーゼにエクソヌクレアーゼを組み合わせることでHDR効率を向上させるアプローチを追究した。

[成果]

 研究チームは、5'および3'エクソヌクレアーゼをCRISPR/Casエンドヌクレアーゼに融合させ、植物のHDRを促進する能力について試験した。その結果、ヘルペスウイルス (HSV1) 由来の5́-エクソヌクレアーゼUL12とバクテリオファージT7ファミリーのエクソヌクレアーゼ (T7E) がHDRの頻度向上に最も有効なことを同定した。 

タバコモザイクウイルスベースの一過性アッセイ系により、一過性形質転換系と安定形質転換系の双方において、数キロ塩基のDNAの正確かつスカーレスな挿入が実現することを確認した。
シロイヌナズナでは、エクソヌクレアーゼUL12をCas9に融合させることで、形質転換体の第一世代におけるノックイン頻度が10倍高くなった。さらに、コムギの一次形質転換体の1%において、安定した遺伝性のノックインが証明された。

 今回得られた結果は、植物における遺伝性のノックインと遺伝子置換の日常的な生産への展望を開くものとなった。
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